「ノラや」内田百閒(中公文庫)amazon.co.jp
「ノラが昨日の午過ぎから帰らない。一晩戻らなかつた事はあるが、翌朝は帰つて来た。今日は午後になつても帰らない。ノラの事が非情に気に掛かり、もう帰らぬのではないかと思つて、可哀想で一日ぢゆう涙止まらず。やりかけた仕事の事も気に掛かるが、丸で手につかない」
作家・内田百閒が、居なくなってしまった愛猫ノラを探し、一喜一憂する日々を書いたエッセイ集です。野良猫として家に迷い込んできた猫を「ノラ」と名付け一緒に暮らし始める。しかしある日突然、ノラは庭から外へ出て、そのまま戻ってこなくなってしまう。近所の警察署へ捜索願を出すのみならず、雑誌連載でも迷い猫の記事を掲載、ついには英文広告まで作成してノラを探す日々。そんな中、ノラに似た迷い猫クルツが家にやってくる。ノラへの思いを断ち切れないももの、病気がちなクルツの面倒をみているうちに、愛情がわいてきてしまう。居なくなってしまったノラへの気持ちと、クルツヘの新たな愛情の狭間で葛藤する百聞先生。「猫は小さな子供と同じで、だましたり、うそを云つたりしてはいけない」と語る百聞先生の猫との接し方から、猫が人間と対等にある生き物だと教えてくれるはずです。