日本でおそらく1件しかない猫本専門の古本屋『書肆 吾輩堂(しょしわがはいどう)』がオープン。なぜ、猫本だけを取り扱うのか、そして猫本の魅力とはどこにあるのか、店主である大久保京さんにお伺いしました。
—なぜ猫の本に特化した書店をはじめたのですか?
「自分が集めようとした時にそのような書店がなかったからです」
—どんな反響がありますか?
「ありそうでなかった店だとか、このような店を待っていた、とか。よくぞ猫に特化してくれた、ものすごく思い切りがいい、頑張って続けて欲しいというご感想が多いです。店舗もなく細々やっている店ですが、このような猫好きの皆様からの励ましが一番嬉しいです」
—アイコンになっている袴を着た猫のキャラクターについて教えてください。
「浮世絵師随一の猫狂い、歌川国芳の浮世絵『流行ねこの狂言尽くし』から取りました。1840年頃の浮世絵です。本来の浮世絵の中ではこのように口上を述べています。
“東西東西此度新工夫猫狂言に取仕組おいおいご覧入れ奉りまする。そのため口上さやうにゃぐにゃぐ”
仕事上浮世絵を扱うことがあり、その頃から浮世絵には猫が多い、そして国芳の猫好きは異常だと思っていました。なのでお店のロゴを決めるとき、ためらうことなくこれに決めました。裃に威儀を正していますが、よく見ると紋は猫の肉球、柄は『小判』=猫に小判、と大変洒落の効いた図柄です。もうひとつのニャロメにそっくりな『似宝蔵壁のむだ書き』(三枚続)の真ん中で踊っている『猫又』にしようかと迷いましたが、かしこまった感じが良く出ているので、こちらの『猫の口上』に決めました」
—猫の本に共通する面白さとは?
「主役はもちろんですが、脇役としても印象に残る重要な役割を演じている感じがします。人に媚びることがなく、却って人が猫に振り回され、尽くし上げている印象があり、そこが他の動物と違って面白いと思います」
—日本と海外の猫本で、一番違う点は?
「大幅な違いはないと思いますが、海外の猫本は推理&恐怖小説によく猫が出てくる印象があります。西洋では猫は不吉なものとされていた歴史が長いからなのかな、と想像しています。あと猫の目線で書かれた小説が多いと思います。日本は猫と人間のほのぼののした関係を描いたものが多いですね」
—小説家と猫は相性がいいといわれますが、その理由はどこにあると思いますか?
「昔から深夜まで机に向かう小説家に猫が寄り添ってきた(というか、邪魔もしてきたかもしれませんが)からではないでしょうか。特に昔の日本では犬は外で飼うものでしたから、家の中で一緒に過ごす時が多いのは圧倒的に猫だったと思います。あと、まっすぐな、分かりやすい気性の犬と比べ猫のとらえどころのないミステリアスさが作家の想像力を刺激したのかもしれません。私自身は猫は犬に勝るとも劣らない、大変正直な動物だと思いますが」
—ご自身のベスト3の猫本をおしえてください。
1.『民子』浅田次郎
「作者の実体験からヒントを得ているそうですが、これほど泣けるせつない猫本を知りません。びっくりするのはこの完成度なのにたった原稿用紙1枚に書かれているということです」
2.『ノラや』内田百閒
「あの厳格そうな文豪がいなくなった愛猫を探して泣き暮らす、というのが意外でした。恥もなにもかもかなぐり捨てて必死に探し回る姿に胸が熱くなります」
3.『作家の猫』
「これこそ作家と猫の関係を知るのに最適な1冊です。古今東西の作家と猫の交流が写真と共に描かれています」
—猫を飼っていますか?
「4匹飼っています。すべて野良の母猫から捨てられて死にかかっていた仔猫を拾いました。きじ猫×2(♂)、黒猫(♂)、グレーに黒の縞(♀)の合計4匹です。一番上は今年の夏に18歳になりました。人間の家族は4人ですが、各自に1匹の猫という感じです。猫は家庭に平和をもたらします」
—犬、もしくは他の生き物をテーマにした書店をやる予定は?
「ありません。万が一やるとしてもヒョウとかトラとかやはりネコ科ですね」
—猫の一番の魅力とは?
「全てです。外見だとふわふわした毛皮や美しい眼、感情を豊かに現す尻尾とひげと耳。性格からいうととても素直なのに、意地を張って見せるところとか、人間のことを本当によく見ていて慰めてくれる時もあれば“これだけはしないで”という事を嫌がらせのようにわざわざやってくれることとか。しかし、夜仕事しているのに膝に乗ってゴロゴロされると足が痺れますし、眠くなるから止めて欲しいです」
■書肆 吾輩堂
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