美術家・横尾忠則×タマ「世田谷区動物フェスティバル」から表彰される!

Feb 18, 2011 / Topics

Tags: interview

Photo: Shin Suzuki / Edit&Text: Madoka Hattori

言わずと知れた愛猫家の美術家・横尾忠則さん。昨年9月、横尾さんの愛猫タマさんが不慮の事故に遭い、瀕死の重傷を追ってしまいました。ところが横尾さんによる必死の看病と、18歳とは思えないタマさんの生命力により、死の淵から見事回復。その献身的な看病を讃え「世田谷区動物フェスティバル」から表彰されたニュースは、ネットでも話題になりました。そこで、タマさんとの出会いから猫の魅力について、横尾さんに語っていただきました。


自ら運命を切り開いたタマ

—タマさんとの出会いは?
「タマは元々、野良猫だったんです。以前に2匹の猫を飼っていたんだけど、亡くなってからはしばらく喪に服すために、猫は飼わないようにしていて。猫にも礼節があるじゃない。そう思ってたんだけど、ある日庭に目が悪くてひょろひょろしていて、あまり見かけない猫がいてさ。他の猫は呼んでも餌を食べに来ないんだけど、タマだけはふらふら〜とやってきてね。台所でうちのカミさんがご飯をあげたりして、いつの間にか家に居るようになったんだよ」

—では、タマの方から横尾さんに近づいて来たんですね。
「猫は自分で運命を切り開くの。家の周りには野良猫が沢山いて、タマよりももっと強そうな猫もいる。タマは目も悪いし、家に来なければどうなっていたかわからない。正直、飼うならもっと可愛い顔の猫を探したと思うけど(笑)」

—「タマ」という名前はどこから?
「家で飼いはじめてしばらくしたら、タマのお腹がポッコリ膨れてさ。“ああ、妊娠しちゃったよ、どうしよう“と思って、色んな知り合いに声をかけて里親になってくれる人を見つけたんだよ。でも、一向にタマのお腹の大きさが変わらないし、全然産まれなくって。しばらくして、ご飯の食べ過ぎで太っていたってことが判ったんだよね。妊娠じゃなかったの!(笑)。まるでダチョウの卵が入っているかのように膨らんでいたから、名前を『タマゴ』にしたんだ。でも“タマゴ!タマゴ!”って呼んでいると、近所の人に玉子を食べたくてカミさんに要求しているみたいで恥ずかしいじゃない。だから、『ゴ』をとって『タマ』にしたんだよね」

不慮の事故から、奇跡の生還を遂げたタマ

—タマさんが事故に遭われたのは、昨年の9月でしたよね。
「突然事故にあってね。メス猫だからテリトリーが狭くて、家の周り以外には出て行かない。だから、家の近くで多分バイクに跳ねられたか、誰かに蹴られたのかはわからないんだけど…這うようにして家に帰ってきたの。外からは傷は見えなかったんだけど、今まで聞いた事のないような声で鳴いていたから、慌ててうちのカミさんが病院に連れて行ったんだよね。そしたら獣医は“瀕死の状態でもうダメだろう。内臓が肺まで上がっていて、今晩一日持つかどうかわかりません”と。手術をするかと聞かれて、イチかバチかやってもらうことになってね。お腹を切って内蔵を元に戻して、まるで“神の手”に見えたよ(笑)。それから、毎日家族で見舞いに行って、徐々に徐々に元気になったの」

ーきっと、タマさんの生命力がとても強かったのですね。
「病院でも優等生でさ、入院していたのは2週間くらいだったけど、看護婦さんにもなついていたみたい。そしたら突然、『世田谷区動物フェスティバル』から表彰状が届いてさ。病院から熱心に看病しているっていうことで、推薦してくれたみたいなんだけど。最初は冗談かと思ったら(笑)、世田谷区長さんからだったので驚いたよ」

—退院してから、タマさんに変化はありましたか?
「人なつっこくなったかな。朝、顔を洗う時も一緒についてきたり、トイレ入る時にもついてきてね。トイレに行くなんて、いちいち猫に言わないのにさ(笑)。必ずついてきて、お尻を叩いてってせがむんだよね。どこに行けば、好きな“お尻叩き”をしてくれるか、常にアンテナを立てているんだよ」

—普段のタマさんはどんな性格ですか?
「24時間寝っぱなし。起きているのは1時間くらいしかないんじゃないかな。だから、写真撮っても寝てる写真しか採れない(笑)。僕がベッドでくつろいでいると、曲げた片足の上に必ず乗ってくるの。一緒にテレビを見ているのかなと思ったら、目をつぶっていて。猫は動くモノが好きなのに、テレビには全然興味がないみたい。冬は寒いから、外に出たがらないしね。今はずっと引き出しの中で寝てるよ。タマは人間でいうと80歳くらいだからね。僕とどっちが先に行くかなって考えてる(笑)。タマはあと10年生きるとは思えないし、僕自身も10年は無いと思ってるから、今いい競争をしているよ」

自由奔放な猫は芸術家 !?

—横尾さんは、アンディ・ウォーホルが描いた猫の絵本『Cat,Cat,Cat』の監修をされていましたよね。また『猫のいるY字路』や『魔除け猫』など、作品の中にも猫が登場することもあります。絵を描く時、猫からインスパイアされることはありますか?
「ないねぇ(笑)。猫を絵に描くと、絵が幼くなってしまうんだよね。今は子どもっぽい絵が流行っているじゃない? 幼児っぽい絵はブームだけど、そうはしたくない。ピリッとした緊張感がないとね。猫の生き方や態度は、とても勉強になるけど」

—タマさんが入院している時、ご自身のブログに「ぼくは猫のタマを教育できなかったが、タマはぼくを教育した」と書かれていました。
「それはね、猫という生き物は、いい意味でわがままで“自己に忠実”なの。人間は結構、妥協しちゃうじゃない。自分の思いに忠実でなかったり、妥協してしまうことは、社会の中で行きて行くには必要な時もあるんだけど。猫は一切、妥協しないんだよね。だから“猫は芸術家のあるべき姿”だと考えるわけ。昔、子猫がいたずらをするから、ゴミ箱にポイッって入れたらしばらく出てこない。それでどうしたものかとゴミ箱を見てみると、中で紙くずとか引っ掻き回して遊んでいるの。猫は、どんな状況に置かれても遊べる自由さを持っている。人間も“どんな状況に置かれても遊んでやる!”という自由さを持っているべきなんだよね。そういう意味で、僕は猫に教育されているんだよ」

タマ photo by 横尾忠則

横尾忠則(よこお・ただのり)
美術家。兵庫県生まれ。パリのカルティエ現代美術財団での個展など海外での発表が多く、近年は東京都現代美術館 、金沢21世紀美術館、国立国際美術館など美術館での個展を毎年開催。絵画、写真、小説等々、ジャンルを超え幅広い芸術活動を展開する。近著に泉鏡花文学賞を受賞した小説「ぶるうらんど」、「ポルト・リガトの館」「猫背の目線」など。今年は岡山県立美術館(6/1~7/10)、高知県立美術館(7/17~9/25)で個展を開催、また「ヨコハマトリエンナーレ2011」(8/6~11/6)に出品する。 http://www.tadanoriyokoo.com