平凡社 PR誌『月刊百科』のユニークな猫たち:アートディレクター・服部一成さんインタビュー

Jan 23, 2013 / Topics

Tags: column

Photo:Kazuho Maruo Text:Madoka Hattori

平凡社 PR誌『月刊 百科』のユニークな猫たち
アートディレクター・服部一成さんインタビュー

平凡社のPR誌『月刊百科』の表紙に描かれた一風変わったフォルムの猫たち。アートディレクターとして表紙のデザインに携わってきた服部一成さんに、表紙の猫たちについてお伺いしました。



—2008年1月号から、休刊する2011年6月号まで表紙のデザインを手がけられたそうですね。なぜ、表紙に猫を起用したのでしょうか?

「んー、なんとなく(笑)。『月刊百科』の表紙をデザインしてほしいという連絡をいただいた際、2色で構成してほしいという制限はあったものの、それ以外は特にテーマはなかったんです。この冊子は、本屋さんで無料で配られるものなので、愛嬌のある具象なモチーフでやりたいなと。そこから、毎号いろんな動物でやるアイデアがでてきて、1月号の締め切りに合わせてつくったのが猫でした。レイアウトを渡した際、『来月はサルか犬か……まだ決めてはいないんですが、動物でいきます』と担当の足立さんに伝えたのを覚えています。きちんとプレゼンしたわけではなく、出来上がったモノを入稿前にお見せするという進行だったので、デザインはこちらに任せてもらっていました」

—いままで、猫を飼ったことは?

「子どもの頃は犬を飼っていました。実は最近、猫を飼い始めたんです。でも全然馴染んでなくて抱っこもさせてくれず、手を出すと引っ掻かれます。『月刊百科』のデザインを手がけていた時は飼っていませんでした。表紙の猫たちは簡単な図形のみで構成しているので、猫に見えないというツッコミもあったことも。実際は、三角の耳がついていれば猫っぽくなったりするので、モチーフとして扱いやすいという一面もあります」

—犬との違いは感じますか?

「犬種によってフォルムも全く違うから、バリエーションを出しやすいと思います。逆に猫は制約がある分、面白味がでるのかもしれません。1月号で猫を描き、2月号を入稿する時に、猫で続けることを決めました。平凡社は『作家と猫』という本がでていることもあり、猫と本は相性がいいのかなと。サルやほかの動物でやっていこうかなとも考えたのですが、結局猫の持っている愛らしさや、それでいながら懐くわけでもないというキャラクターが平凡社にしっくりくるなと。また平凡社という社名をあえて顔のデザインに入れ込んだんです。猫の顔に文字が入っているというバカバカしさが面白くていいかなって」

—猫を表紙に起用したことで、反応はありましたか?

「全くなかったです(笑)。もともと販売しているものではないし、本屋でもあまり見かけなかったり……。ちょっと寂しいですよね。今回の取材が最初の反応ですよ。ただ、僕としてはやってみていろいろ発見があり面白かった。ここで描いた猫をgggで開催した個展のポスターに使ったりもしました」

—デザインをする上で、猫のリサーチはしたのですか?

「改めて猫を観察することはしませんでした。だから猫好きな人がみたら、猫のことをわかっていないな、と思うかもしれません。スケッチを描くこともありましたが、モニターの前で図形から起こすことも多かったかな。猫のわき役としてイモ虫(2008年4月号)を描いたりもしてみたのですが、いまいち伝わらなかった。それで5月号ではシンプルにしてみたりと、フラフラしながらデザインの方向性を決めていきました。結局1年目は、体がストライプで顔に平凡社の文字を入れるという縛りに落ち着きました。2年目は平凡社の文字を口にレイアウトしています。谷岡ヤスジや赤塚不二夫の漫画にでてくるキャラクターのイメージで、できるだけ猫のフォルムを解体しようと。フォントもゴシックに変えました」


〈2008年1月号〜12月号〉


〈2009年1月号〜12月号〉

—ちょうどこの頃、『月刊百科』担当の足立さんがやっているツイッターアイコン( @heibonshatoday )にこの画像が使われていて拝見したのですが、失礼ながら、最初は猫だと気づきませんでした……。

「かなり猫から逸脱していますよね。ハメを外そうとしてちょっと苦しんでいたかも(笑)。顔は耳をつければどうにかなるのですが、体が難しい。猫らしいポーズやしぐさは考えず、グラフィカルな面白味を追求していました。3年目になると、昨年の反省を生かしてシンプルにしようと決めて。ストライプを止めてシルエットにこだわり、色を淡いトーンに揃えました。筆文字に変えた『月刊百科』のロゴも読みづらくて、普通の雑誌ではありえない薄い色味なのですが、PR誌なので毎号内容も変わりますし、各号の特集があるわけでもない。表紙も連載コンテンツの1つという考え方です。だから自由にやらせてもらえたのだと思います」


〈2010年1月号〜12月号〉

—ここまで揃うと、服部さんが生み出す猫の多様さに圧倒されます。

「アートディレクターの先輩である井上嗣也さんがこのシリーズを気に入って、1000匹まで続けて本にしてよと言ってくださいました。でも残念ながら4年目の6月号、全部で42匹描いたところで終わってしまったのですが。4年目は細かいディテールをやめ、色を渋くしたんです。最後の号は、1号目の猫が泣いている姿で締めました。井上さんに休刊になってしまったんです、と報告したら『そんなの関係ないよ。描き続ければいいじゃない』と。でも、仕事でないとサボり癖があるので続けていくのは難しいですね」


〈2011年1月号〜6月号〉

—猫好きとしては、すでにある分だけでもまとめて本の形になっていたらいいのに!と思います。

「いや、42匹ではZINEにしかならないですね。そういえば今日、僕が小学5年生のときにおばあちゃん宛に書いた年賀状を持って来たんです。うさぎの顔に文字がはまっていて、1号目の平凡社の文字を顔にするアイデアと同じ。2〜3号手がけてから、ひょっこりこの年賀状がでてきたのですが、自分でもビックリしました」

—すでに小学生のころにあったアイデアだったのですね! そしてついに猫を飼うことになったと。

「猫をモチーフにした作品でいえば、ハローキティの展覧会『KITTY EX.』に出品したものや雑誌『真夜中』で猫のシルエットを使ったビジュアルをつくったこともあります。とはいえ、まさか猫を飼うことになるとは思わなかった。犬の従順なところとは違う、猫と飼い主の関係にずっと憧れはあったんです。猫は独立している感じがします。猫そのものというよりも、その存在のしかたに魅かれるんですよね」

服部一成(はっとり・かずなり)
1964年東京生まれ。東京芸術大学美術学部デザイン科卒業後、ライトパブリシテイ入社。2001年よりフリーランスに。主な仕事に、「キユーピーハーフ」の広告、「三菱一号館美術館」のロゴタイプ、「流行通信」「here and there」「真夜中」のエディトリアル、「プチ・ロワイヤル仏和辞典」ブックデザインなど。作品集に「服部一成グラフィックス」(誠文堂新光社)がある。