ブログ『センネン画報』や沖縄のひめゆり部隊を描いたマンガ『cocoon』で注目を集める漫画家・今日マチ子さんとその愛猫ムームさん。極度の人見知りというムームさんは、30分経ったところでベッドルームから顔を出してくれたものの、撮影カメラから逃げるように机の下やプリンターの裏に隠れてばかり…。写真家・鈴木心が机の下に潜り込み、懸命なアプローチをすること約2時間。ようやく、ムームさんの姿をカメラに収めることができました。
ネットで見つけた運命の出会い
ー ムームさんとの出会いは?
「ぼんやりと猫を飼いたいなと思っていた時に、たまたま自由が丘にある猫専門のペットショップのホームページで、すごく好みの子を見つけたんです。気がついたら毎日そのページをチェックしていて、そのうち誰かが連れていってしまうのではないかと、仕事が手につかなくなってしまって(笑)。それである日、けじめをつけるためにペットショップに見に行くことにしたんです。諦めるつもりだったのですが、見た瞬間に『飼います!』と言って連れて帰ってきてしまいました」
ー 偶然ネットで見つけた子が、運命のお相手だったのですね。それまで猫を飼ったことはあったのですか?
「一人暮らしをするまでは実家で、入れ替わりで2匹の猫を飼っていました。小学校の時、担任の先生が飼っていた猫に子どもが生まれて、貰い手を探していたんです。母親も猫好きだったので、すぐに飼うことになりました」
猫が家にいるということが、幼い頃からマチ子さんにとって日常だったと。
「そうですね。一人暮らしを始める時にも、おのずとペットが飼える物件を選んでいました。ずっと家の中で一人きりでする仕事なので、行き詰まると『ダメだ!』と思い込んでしまうんです。そんな時に猫がワンクッション置いてくれてると気分転換になります。ムームが来てから、心に余裕がでてきましたね」
ー『早稲田文学増刊π(パイ)』に掲載されている作家の松田青子さんとの対談でも、“書いては猫をさわり、書いては猫をさわる”という話が出てきましたよね。ムームさんはどんな性格ですか?
「性格は完全に“お姫さま”ですね。内弁慶なので、今日みたいに人が来るとビビって逃げちゃうのですが、普段は堂々としています」
ー『ムーム』という名前の由来は?
「アイスランド出身の『mum』というバンドが好きで。あと、ペットショップで抱いた瞬間にいきなり寝はじめたんです。その寝ている時の“ムニャムニャ”という音にも近いと思って名付けました」
ー マチ子さんのTwitter( @machikomemo )に登場するムームさんは、アンニュイだったり色気があったりと表情豊かです。
「最初にTwitterを始めた時は普通にやっていたのですが、作家として私生活をそのまま出すのがあまり好きではなくて。そこで、少しフィクションの要素を入れ、ムームを擬人化して登場させています」
ー 長い毛とたれ耳が特徴ですが、ピンク色の鼻と肉球がとてもセクシーですよね。
「“鼻ピンク”は憧れだったので、キュンとなります。目にもアイラインのような模様が入っていたりと、ムームは“女子力”が高いんです」
猫と人。お互いが一番の友達
ー 一人暮らしで猫を飼っていて、大変なことはありますか?
「家を空ける時は人に頼んだり、ペットショプに預けたりしなければいけませんが、仕事柄家にいることが多いので、特に問題はありません。ただ、お風呂に入れる時は手伝いが必要ですね。緊張するみたいで、ちょっと暴れるんです」
ー もう一匹飼うことは考えましたか?
「ムームは自分が一番でないとダメみたいなので諦めました。最初にお兄ちゃんがいて、妹を迎える場合は割と上手くいくみたいなのですが、女の子が先だと嫌がることが多いみたいです」
ー 猫と飼い主の心地よい距離とは?
「猫に飼われているのではなく、お互いが一番の友達という感じです。わがままもブラッシングをしろとせがむくらいで。1日5〜6回はブラッシングしていますね。あと自分を見て欲しいというか、忙しくて余りかまっていないと原稿の上にのってくることもあります。その姿があまりにかわいいので、原稿を諦めてご飯を作ったり(笑)。姿が見えないと不安になるようで、お風呂からあがると『どこいってたの?』と “ニャーニャー”と鳴いたりもします」
ー キャットフードのごだわりはありますか?
「ご飯はカリカリのみです。ペットショップで勧められたヘアボール(毛玉)を減らしてくれる『ロイヤルカナン』の成猫用が多いですね。前に飼っていた猫はすごく好き嫌いがあったので、本人が何もいわないうちは替えないようにしています。ムームはカリカリよりも、水のほうが興味があるようです。水の入ったモノを見ると引っくり返したり、キラキラしているモノが好きみたいで、わざと水面を揺らして『わーキレイ!』って遊んでいますね」
ー トイレやおもちゃには、どんな工夫をされていますか?
「トイレは玄関に置いています。匂いがこもらないように、空気を入れ替えられる場所を選んでいます。おもちゃは、ねこじゃらしなど色々買っていますが、紙を丸めたどうでもいいようなモノが好きみたいで(笑)。梱包用のスズランテープも好きですね。部屋が狭いので、運動不足にならないようキャットタワーは必須です。夏は窓際に居ますが、冬はヒーターの前に置いた、靴箱で作った“猫ベッド”に居ることが多いですね」
猫とマンガ家という仕事
ー 猫を飼っているマンガ家さんや作家さんはとても多いですよね。猫が登場する本やマンガを読むことはありますか?
「普段、あまりマンガは自分で購入しないのですが、猫モノだとつい手にとったり買ったりすることが多いです。一番のお気に入りは『伊藤潤二の猫日記 よん&むー (ワイドKC)』です。伊藤潤二さんはホラー漫画家なので一見怖く見えるのですが、実際は猫との暮らしで起こるギャグマンガになっていて最後は泣けます。『マンガ・エロティクス・エフ vol.66』という雑誌で伊藤先生と対談した時、ご自宅に伺いマンガに登場する猫たちと遊ばせていただきました。自分の作品では、『別冊 文藝春秋 2011年 01月号 [雑誌]』というほのぼのとした猫マンガを描いていて、そろそろ単行本になると思います」
ー 猫マンガを描くことになったきっかけは?
「Twitterなどでムームの姿を公開するようになってから、編集さんから"猫マンガを書いて欲しい"と声がかかるようになりました。本当はもう少しキャリアを積んだところで、シリアスな作品の傍らほのぼのと猫マンガを描きたいと思っていたんですが…。『猫時限』では、丸くかわいらしく描いています。柔らかくて不定型な感じ、無邪気な感じを出すようにしています」
ー マチ子さんはご自身のブログ『センネン画報』で毎日作品をアップされていますよね。
「毎日書くということは大変だけれど、“数の力”はあると思っています。努力論ではないのですが、いい方向に数を重ねることは意味がある。量を沢山やることで、良い悪いがはっきりするんです。マンガはそれぞれ好きな画風があると思うのですが“1000枚描きました”というと、それだけで引っかかりにはなります」
ー 昨年発売された、沖縄のひめゆり部隊をテーマにした『COCOON』(秋田書店)は衝撃的でした。
「今までの“青春”や“かわいい”というようなタッチとは全く違い、グロいし死ぬシーンも出てきます。私の世代で戦争マンガを描く人がいなかったので、ファンの方もびっくりしたと思いますし、色んな方に意外だといわれました。戦争マンガを描く上でのモチベーションとして、例えば自分のおばあさんが被爆していたとか、自分が沖縄出身であるといったことが必要だと認識されてきました。でも、私の場合は何にも関係がない。関係がないからこそ、あえてチャレンジできたのかなと。担当の方が沖縄出身で企画を持ってきた時に、なぜ私が描かなければいけないのか? と思ったりもしましたが、結果的には上手くいったかなと思います」
ー 戦争という重いテーマを描くことで、何か変化はありましたか?
「意識的に大きなテーマに取り組もうと思うようになったことですかね。フィクションを書くことに対して自由になった気もします。みんなの中に“戦争は史実に基づいて描かなければいけない”という強迫観念があると思います。でも別に、そこに縛られる必要は無い。もちろん、亡くなった方には敬意を払うべきですが、戦争体験者でなくても物語のモチーフとして“戦争”を扱うことは出来ると思います。面倒だと思ってやらない人が多いようですが、自分は苦しみながらも描いたことで、物語の可能性が広がりました」
ー フィクションとして読んでいいのでしょうか。
「『cocoon』は半分は事実であり、半分は物語です。人によって読み取り方も違って、ただのマンガとして受け取る人もいるし、反戦マンガとして読む人もいます。私としては反戦マンガという意識は無く、物語として戦争を扱ったという感じでした。 “戦争反対”というメッセージを載せるのは簡単ですが、この作品ではメッセージが明確でないので、サッと読んでしまう人は何を言っているのかわからないかもしれません。いろいろな読み方ができるので、不思議な感覚になるという感想をいただくことが多いですね」
ー 次の作品のテーマは決まっているのですか?
「『アンネの日記』をモチーフにした作品を描く予定です。日本の少女マンガに登場する、どこだかよくわからない“西洋”ってあるじゃないですか? そんな奇妙な世界を表現したいなと。『cocoon』の続編として、3月くらいには『エレガンス・イブ』(秋田書店)で連載が始まります。実はもうすぐ、舞台となったオランダとアウシュビッツに取材に行くんです。沖縄での取材はとても大変でしたが、同じ戦争というテーマでも違った面が見れるのではないかと思っています」
〜後日レポート「猫嬢ムームさんのお引っ越し」はこちら。