出版社の校閲部で働きながら、ひとり校正社としても活動している牟田都子さんは、ランコントレ・ミグノンからやってきた愛猫・みたらしさんと暮らしています。ずっと憧れだった、猫との初めての暮らし。みたらしさんがやってきて1年が経ち、犬好きだったという旦那さんもすっかり猫に夢中になっているとか。少し警戒しながらも様々なポーズをみせてくれた、みたらしさんの元気な姿をお届けします。
憧れだった猫との暮らし
—みたらしさんとの出会いは?
「ずっと猫が飼いたかったのですが、なかなかペット可物件がみつけられず、ようやくいまの物件をみつけて探し始めました。ilove.catの坂本美雨さんの記事(https://ilovedotcat.com/ja/1332)を読んで、里親募集という選択肢があることを知り、近所の譲渡会に行ってみることにしたんです。でも、何度か通ってみたのですが、ピンとくる子がいなくて……。たまたま知り合いの編集者さんご夫婦が、ミグノン卒の猫を飼っていることを著書『豆柴センパイと捨て猫コウハイ』(幻冬舎)で知って、ミグノンに行ってみることにしたんです」
—こんな猫がいい、というイメージはあったのですか?
「実は、夫は犬が好きだったんです。ミグノンは犬猫の両方がみられるし、周りに犬を飼っている人が多いので、いい出会いがあれば犬でも猫でも、どちらでもいいかなと思っていました。行ってみたら、みたらしがいたんです。茶トラ柄が好きだったのと“みたらし”というネーミングが可愛いなと。その時、茶トラは2匹いたのですが、雄猫のほうが甘えん坊だと聞いたので、みたらしに決めました」
—どんな手続きを経て、牟田さん宅にやってきたのですか?
「その場で申し込みをして、トライアルの日までに用意する物のリストをもらいました。一番悩んだのがケージです。なるべくインテリアを邪魔しないデザインのものを必死に探して用意しました。トライアル当日は、預かりボランティアの方とミグノン代表の友森玲子(りょうこ)さんが、みたらしを連れてきてくださいました。ちょうど友森さんにテレビ番組が密着していて、テレビでもその様子が放送されたようです。それから2週間後にミグノンに連れて行き、正式譲渡になりました」
—家にやってきた時のみたらしさんの様子は?
「キャリーから出すとすぐに姿見の後ろに逃げ込んでしまって……。テレビクルーもいたので、なんとか出てきてもらい、触っている様子を撮影した記憶があります。かなりガチガチになってましたね(笑)。でもすぐに膝の上にのって甘えてきました」
—犬でもいいかも、と思っていたそうですが、実際に猫と暮らしはじめて発見はありましたか?
「犬だとしっかりしつけをしないといけませんが、猫は本当に手がかからないですよね。ソファーをひっかいたりもしないし、もっと部屋をボロボロにされるかと思っていましたが、みたらしは大丈夫でした。しかも犬みたいに、ボールを投げて取ってこい遊びもします。夫も私も、猫を飼うのが初めてなので他の猫がどうなのかわからないのですが。預かりボランティアの方からいただいた、みたらしの性格やお世話のアドバイスがとても役立ちました。ごはんをあげる時に手を叩くと来るようにしつけもされていて、いまでも活用しています」
—みたらしさんは、すごく足がシュッとして長いですよね。
「そうですか? 初めての猫がみたらしなので、比較ができないんですよね。カギしっぽなのですが、たまに他の猫をみると、猫ってこんなにしっぽが長いんだ! とびっくりします(笑)」
—“みたらし”という名前は、あえて変えなかったのですか?
「正式譲渡後は変えてもいいみたいですが、ミグノンでつけられた名前をそのまま使っています。夫はもっと別の名前を考えていたようですが、私はもうそのままがいいなって。でも人に名前を聞かれて答えると、ちょっと笑われるんです。私はすごくいい名前だと思うんですけどね(笑)」
猫好きな作家たち
—ご飯はいつもカリカリですか?
「そうですね。あとは、海苔と干し椎茸が好きです。卵かけご飯を食べようと海苔の缶をだしてパカッと開けた瞬間に、サッと目の前にやってきます。きっと耳がいいんでしょうね。大好きな村上春樹さんのエッセイに、おせんべいの海苔だけを食べる猫が登場するんですけど、みたらしに海苔をあげていると、ああこれが海苔を食べる猫だ! とちょっと嬉しくなります」
—猫にまつわる本はお好きですか?
「もともと私が猫に憧れたのは、村上春樹さんのエッセイに猫が度々登場していたからなんです。最近でも、村上さんは読者からの質問に答える『村上さんのところ コンプリート版』(新潮社)で、なにかと“気のいい猫を飼う”ことをすすめています。村上さんが描く猫は平和や小確幸(小さいけれど確かな幸せ)の象徴なんですよね。猫だけは、いつでも手放しで褒めています。また、町田康さん(https://ilovedotcat.com/ja/2720)の猫のエッセイも愛読しています。病気や死についても描かれているので、ちょっと辛い気持ちになることもあるのですが、でもすごくいい本だと思います」
—やはり“作家と猫”は切り離せませんよね。
「以前、ある作家さんが猫を拾ったので飼える人はいないか? と、編集部から校閲部に連絡がきたことがありました。きっと気質的に、作家は猫と相性がいいのだと思います。実は、猫を飼う前は、猫にまつわる本はあえて読むのを我慢していました。読むと飼いたくなってしまうので……。実際に飼い始めて読み出すと、作家の描く猫にはものすごいリアリティがあって、猫との暮らしはいろんなことが起こるのだなと思わされます」
マラソンのような地道な仕事
—普段、校正のお仕事はご自宅と出版社と半々でされているのですか?
「月の半分は出版社で、残りは個人で受けている仕事を自宅でやっています。連日12時間以上ぶっ続けで校正することもあり、集中力が途切れないように気をつけなければいけません。とはいえ、自宅ではみたらしがいるので、疲れるとこねくり回したりして、ホッと癒やされます」
—書籍や雑誌などでは当たり前の校正というお仕事ですが、WEB媒体では校正を入れているところは少ないですよね。
「媒体や出版社によってやり方や校正者の立場は異なりますし、調べ物が得意な人もいれば、誤字をみつけるのが冴えている人もいます。私は探偵のように調べ物をするのが好きなんです。例えば、夏目漱石の『こころ』からの引用があった場合、旧字旧仮名遣いだからこれはあの出版社の全集かな、とか。答え合わせのような感覚ですね。もちろん、経験がモノを言う仕事なので、やればやるほどスキルはあがっていきますが、私はまだまだです。いくらやってもやりきれない。いつまでみても間違っていないか不安だし、終わりがない仕事なんです。でも校正した部分に著者の方がどう反応されるかとか、舞台裏をみられるのがとても面白いところだと思います」
—牟田さんはご両親も旦那さんも校正者と伺いましたが。
「そうなんです。父も母も同じ出版社で校正者として働いていました。私はもともと図書館で司書をしていたのですが、30歳をすぎてから校正の仕事に就きました。夫とは、出版社の校閲部で出会いました。彼もマラソンをしていて、似たところがあったんでしょうね」
—おふたりともマラソンをやられているんですね。
「マラソンも仕事も、ひとりでコツコツやる分には、全然苦にならないんですよね。マラソンも自分との戦いですし、最初は42.195kmなんて果てしなく感じる。けれど一歩一歩進めば、必ずゴールに辿りつきます。校正の仕事も、分厚いゲラを前に圧倒されることもありますが、一文字一文字を丁寧に読み進めば必ず終わります。ただ、夫はたんたんとやれるタイプですが、私はやや気が散るタイプ(笑)。だから、みたらしがいると息抜きになってありがたいです」
—初めての猫がいる暮らしはどうですか?
「毎晩、仕事が終わってソファーで夫と晩酌していると、膝にのってくるんですね。それだけで、幸せです。よく笑うと免疫力があがるっていいますけど、毎日笑顔になっていて、免疫力もアップしまくっているはず(笑)。みたらしが目の前にいるのに、iPhoneで撮った写真をみてはニヤニヤしたり。私は30年以上も思い続けて、念願かなって、こんな気のいい猫が来てくれた。本当に毎日が楽しいです」