絵本作家・酒井駒子 × ミツ&コト — 賢くて、美しい猫

Nov 21, 2013 / Interviews

Photo:Kazuho Maruo Edit&Text:Madoka Hattori

絵本『くまとやまねこ』『はんなちゃんがめをさましたら』をはじめ、独特のタッチで動物や子どもの世界を描く絵本作家・酒井駒子さん。グレーの毛並みが美しいロシアンブルーのミツさん&コトさんと暮らしています。美人な猫さんたちとの出会いから、猫がもたらすものについて伺いました。

美しいグレーの猫

—ミツさん、コトさんとの出会いは?

「ずっと猫を飼いたくて、今の家に引っ越してきてからグレーの猫を探し始めたんです。たまたま見つけた四国のブリーダーの方に連れられ、4ヶ月のミツがやってきました。それから2年くらいたち、ミツのお母さんがまた子猫を産んだというのでコトを譲り受けることになりました」

ー“グレーの猫”に惹かれた理由は?

「吉行理恵さんの『小さな貴婦人』という小説に、グレーの猫のお話がでてくるんです。その物語とグレーという色が好きなので飼ってみたいなと。でも出会いがあれば、どんな猫でもよかったのかなと思います」

ー実際に猫と一緒に暮らし始めていかがでしたか?

「子どもの頃、犬を飼っていたのですが、犬の世話はほとんど親がやっていたので、動物とこんなに近く暮らすのは始めてでした。キレイ好きだし、トレイもきちんと覚えるし、賢いんだなって。主に、ご飯とおしっこと遊びについてですが、ちゃんと自分の主張を伝えるために話しかけてくる。猫ってこんなに自分のことをちゃんとできる動物なんだ! と驚きました。ミツは小さい頃はいらずらをしなかったのですが、大きくなってくるとテリトリーを意識しはじめて、自分の理屈に合わないことがあると、シャーッと言いながらパンチをするんです。たまに野良猫が窓の外をウロウロしていると、八つ当たりで私もパーンと叩かれたり(笑)。最初はなぜ殴られるのかわからなくてびっくりしたのですが、習性みたいですね。落ち着いたらケロッとしています」

ーミツさんはちょっとやんちゃな性格なのでしょうか。

「責任感が強いんですよね。コトともそんなにべったりと仲良しではないのですが、私がコトに目薬をさそうとしてコトが嫌がってニャーッと鳴いたら、慌ててミツが駆けつけてくるんです。また、私が家の者と喧嘩をして泣いていたら、側に来てニャーニャーと、どうしたの?と話しかけてきたり。自分がみんなを守っているという感覚なのかもしれません」

ーコトさんがやってきてから、ミツさんは変わったのでしょうか?

「コトがうちに来た時、ミツはすごく傷ついたような顔をしたように見えました。すぐ仲良くなるかなと思っていたのですが、コトがミツのお気に入りのクッションに座っているのを見てから2ヶ月くらい、その部屋に入らなかったんです。でも今は一緒に追いかけっこするくらいは、近くなりましたね」

ーコトさんの性格は?

「子どもっぽく、甘えん坊な性格です。でもうちに来た当初は大人しくじっとしていて、病院に連れて行ったら歯の病気だといわれたんです。薬で治療していたのですが、だんだんご飯を食べられなくなってしまったので、結局、歯を全部抜くという大手術をしました。歯を抜くなんて、本当にしてよいことなのかすごく迷ったのですが、あまりに辛そうで。結局、歯を抜いたら元気になって、性格もどんどん積極的になりました。猫は病院に行く時、それが元気になるためだとしても理解できないんですよね。だからストレスを与えてしまったかなと心配しましたが、結果として、手術をしてとても快活になったのでよかったです。いまはご飯も元気に食べています」

ー2匹の猫たちと酒井さんはどんな関係ですか?

「コトにとって私は母親。ミツも最初は母親だったはずですが、段々とヒエラルキーが変わってきて、対等な友人になり、最近は威張っていてミツのほうがお姉さんですね。ミツ、私、コトの順番。ミツと私でコトを守っているんです。地震があると、パッとミツと顔を見合わせてコトは大丈夫かなって探します」

猫と人が接する時

ー猫と一緒に暮らしていてよかったことは?

「猫といえど、人と一緒に暮らしているような感覚です。今までは、家の者が仕事で留守にしている時は、ひとりぼっちのように感じていましたが、猫がいると安心できる。その存在の大きさはとても計り知れない。みんなペットのことを家族だと言いますが、一緒に暮らしていると本当に家族になっていくんですよね」

ー絵本『くまとやまねこ』では、喪失がテーマになっていますよね。猫は人間よりも長く生きられないので、どうしても先のことを考えてしまう人も多いのかなと。

「猫たちが居なくなった時のことを考えると、どうなってしまうのだろうと不安になります。毎日一緒に寝て、一緒にご飯を食べているのでその喪失感を想像すると恐ろしい。まだ体験したことがないので、時々考えては震えています」

ー猫を描く時に気をつけている点はありますか?

「去年、猫が登場する『はんなちゃんがめをさましたら』という本を出しました。この本で一番描きたかったのが、猫がおしっこをしている所。真面目で哲学的な顔をするじゃないですか。その姿を描きたいなと。また伸びをしている姿だったり、美しい猫の形をできるだけ表現したいと思っています。ロシアンブルーは特に美しいなと思いますが、とはいえ猫を飼い始めるとちょっとブサいくな野良猫でも、猫自体が可愛く見えてくるんですよね。それは、猫と暮らして変わった部分だと思います。また猫は今自分にとって一番身近な生き物。ほかの動物を描く時も、動物の基本として猫があり、そこから想像し展開ていくことが多いですね」

ー猫に惹かれる理由は?

「自分とは全く違う存在だからでしょうか。私よりも猫のほうが賢い。人間と猫は違う種の生き物なのに、人間が悲しんでいると側によってきたり、小さい生き物をいたわったり。Youtubeで赤ちゃんをあやしている猫の動画をみると、本当に猫って優しいな賢いなって思います。また怪我をしている半野良猫を保護して病院に連れていったことがあるのですが、治療の時に興奮して私の手をガブッと噛もうとしたらハッと我に返り申し訳なさそうにすぐ止めて、なんてジェントルマンなのだろうと。自分の感情だけでなく、相手の気持ちを読むことができる。そういう人間との接点に触れると、とてもキレイな瞬間に出会ったような不思議な気持ちになります」

  • 名前: ミツ、コト
  • 年齢: 10歳、8歳
  • 性別: 雌、雌
  • 品種: ロシアンブルー、ロシアンブルー
  • 飼い主プロフィール:
    酒井駒子(さかい・こまこ)
    絵本作家。兵庫県生まれ。著書に『よるくま』(偕成社)、『ビロードのうさぎ』(ブロンズ新社)、『BとIとRとD』(白泉社)など多数。『金曜日の砂糖ちゃん』(偕成社)でブラティスラバ絵本原画展で金牌を、『ぼく おかあさんのこと‥』(文溪堂)でオランダのZilveren Griffelを受賞。下記のアドレスに空メールを送ると活動情報が配信されます。
    sk-yorukuma@a07.itscom.net