2012年に雑誌『ギリギリマガジン』を発刊するなど、幅広いジャンルで活躍するスタイリスト・髙山エリさんは、“寧子”という名の猫と暮らしています。全く猫に興味がなかった髙山さんが、なぜ寧子さんに出会ってしまったのか。寧子さんと自身の不思議な関係についても伺いました。
海で拾った寧子
ー寧子さんとの出会いは?
「撮影で千葉の海に行った時に拾ったんです。ロケが終わって帰ろうとしたら、スタッフのひとりが“子猫がいる〜!”“きゃーかわいい〜♡”と騒ぎはじめて。生まれたてで、本当に小さくて、でも連れて帰っても飼えないしどうしようってなっていたんです。正直、私は全く動物に興味がなかったので、みんなが騒いでても振り返りもしないで、ひとりでロケバスの中で待ってたのですが、なかなか戻ってこなくて。段々、それに腹が立ってきたんですよね、“これは偽善じゃないのか?”って。可愛いと言いながら、“私は連れていけない〜”と。で、じゃあ私が連れて帰るから!と言って東京に帰ってきたんです」
ーでは、いきなり飼う事に決めたんですか?
「周りに猫好きな人も多いし、誰か飼うだろうって思ったんですよね。それで連れて帰ったら、当時一緒に住んでいた人が飼いたいと言いだして、私は育てられないからと飼ってくれる人を探していたら、段々可愛いと思うようになってきたんです。飼いたいという友人が家に来た時には、もう離れたくないって思っていたのですが、その友人も気に入ってしまって、自分で飼いたいと言えなかったんですよね。そうしたら、その友人が私の様子を見て“もしかしてエリちゃん飼いたいんじゃないの?”って言ってくれて、結局、私が飼う事にしたんです」
ー捨てられた子猫を“どうしよう〜!”と偽善的に振る舞う人を尻目に、正義感で飼う事になったんですね。
「私、怖いってよく言われるんですけど、意外と根は優しいんですよ。自分で言ってりゃ世話ないけど(笑)。全く動物を飼ったことがなかったから、すべてが初体験でしたね。すぐに病院に連れて行って、誕生日を決めたり。大袈裟かもしれないけど、突然赤ちゃんができた母親ってこういうことなのかもって思った。初めて、命のことを考えたんです。以前は動物番組を観ても何にも思わなかったのですが、寧子と暮らし始めてからは、牛の出産シーンを見ると号泣しちゃったり……。母性が目覚めたというか、命に対する考えが変わりましたね」
ー寧子さんの性格は?
「人懐っこいのに、気が付くとぴゅーっとどこかに居なくなっている。私と似ているってよく言われます。同じ恰好で寝ていることもありますね。よく猫を子どものように扱う人もいますけど、猫は猫。仕事で子どもと接する機会も多いのですが、私は子どもとして扱えなくって、対等にしか話せない。そのほうが意外と言う事を聞いてくれたりもするんですよね。だから寧子に対しても、猫として接しています」
猫のために仕事をする!
ー寧子さんと暮らし始めて変化したことは?
「責任感というか、生活自体が変わりましたね。仕事以外のこととなると、生活が全く破綻しているんですよ(笑)。蛍光灯とか変えられないし、生活能力が低くって。仕事とファッションしか興味がなかった。それが、寧子はご飯がなくなったらギャーギャー騒ぐし、トイレもうんちが溜まったら、知らせにくる。昔は自分のことだけを考えて仕事をしていましたが、今は猫のご飯代も稼がなきゃと思って仕事をしてますね(笑)。5年て長いじゃないですか。男の人とも、そんなに長く付き合ったことがない。寧子を飼いたいと言っていた人とも暫くして別れたので、寧子だけが残ったんです。よく考えたら、こんなに一緒にずーっといるなんて、家族以外で初めて。当然ですが、寧子はいっつも家にいるじゃないですか。私はひとりでいるのが好きなのに、家にいる限り寧子も家にいる。でも嫌じゃないし、気が合っているのかなと思います」
猫ファッションはアリ? ナシ?
ー最近は猫モチーフの洋服がたくさんでていますよね。猫好きが多いというよりも、猫モノは売れるというアパレルメーカーの意図を感じなくもないですが。
「本当に色々ありますけど、あんまり素敵と思うモノがないです。仕事なので、リサーチはもちろんしていますが、猫柄や猫プリントの洋服は全く可愛いと思えない。猫好きだっていうアピールというか、なんとなく偽善みたいな感じに思えてしまって(笑)」
ーでもキティちゃんのポーチがここにありますけど(笑)。
「これは戴き物ですが、キティちゃんは好きですね。私は自分が好きなモノに自覚的じゃなくって、人に指摘されて、初めてああ好きなんだって気が付くんです。洋服も好きという意識はなくって、単にいろんなお店に行って買って着ていたら、友人に服が好きならスタイリストが向いているんじゃないの? と言われて、スタイリストになるのがいいのかもって思ったんですよね。自然とちょっと人と違うモノを選んだりしていたので、それが個性になるから職業になっただけなのかもしれない」
ーじゃあ猫モチーフの洋服をデザインしてくださいと言われたら?
「今までに全くないモノをつくりたいと思いますね。誰も見た事がないモノ。私はどんなテーマの仕事でも、常に誰も見た事のないモノをつくりたくって。自分にしか出来ないこと。また洋服を着せるときには私なりの“女の子像”を追求しています。女の子の性格や背景をしっかりイメージしながら、そしてモデルにもそのテーマを伝えてなりきってもらう。最近は、なんかみんな薄っぺらいんですよね。表面だけ猫っぽくとかイメージして、猫耳とか付けて、そんなもんで猫は表現できないですよ」
ー髙山さんがイメージする理想の“女の子像”とは?
「芯がある女性。きちんと自分のことをわかっている人がいい。実は仲の良いOLの友達がいて、恰好も趣味も全く違うんですけど、自分を持っていていいんですよね。『ギリギリマガジン』の表紙にも登場してくれた二階堂ふみさんも、素敵だなって思います。いま次号のコンセプトを練っていて、12月末頃には出す予定です。そこで猫をテーマにすることはないと思いますけど(笑)」