建築家・連勇太朗×Hatty — 猫とのあたらしい住み方

Jan 15, 2015 / Interviews

Photo:Kazuho Maruo Edit&Text:Madoka Hattori

木造賃貸アパートを再生するプロジェクト「モクチン企画」などで注目を集める若手建築家・連勇太朗さんは、オフィス兼自宅でHatty(ハティー)という雌猫と暮らしています。犬好きが多いと言われる建築家の中では珍しく、幼いころから猫派だったという連さん。Hattyと暮らしていく中でみつけた、住まいと猫とのあたらしい関係性とは。

建築家は犬好きが多い!?

—Hattyさんとの出会いは?

「大学の庭で、3匹の子猫が産まれたんです。先に2匹引き取る人が決まっていたんですけど、僕が引き取るときはまだ3匹とも残っていたので一番サバイバルできそうにない弱そうなヤツを引き取ることにしました。それがHattyです。幼い頃、猫を飼っている人の家ではすごいクシャミが出ていたので、猫は好きだったんですけど、アレルギーだから難しいかなって最初はあきらめていたんです。でも色々と調べてみたら、ノミやダニが原因の場合もあるようで、必ずしも猫アレルギーじゃないかもしれないということで、チャレンジして飼ってみることにしました。実際、最初の頃はクシャミとか出たんですけど、しばらくしたら大丈夫になりました」

—ここはオフィス兼ご自宅ですが、1軒家でお庭もあって猫には住みやすい環境ですよね。

「そうですね。蒲田は野良猫も多くて、ぎゅうちゃんって呼んでいる牛みたいな白黒のブチ柄の猫がよく遊びにくるんですが、たまにネズミを咥えて庭に持ってきます。Hattyに求愛しに来ているのかもしれませんね」

—Hattyさんはどんな性格ですか?

「マイペースです。全く人見知りもせず、打ち合わせしている最中でも広げた書類の上に堂々と寝っ転がったりします(笑)」

—原研哉さんが手がけている「犬のための建築」展を取材させていただいた際(https://ilovedotcat.com/ja/9527)、建築家には犬好きが多いという印象をもちました。ミュージシャンや小説家などウチに篭って制作するタイプは猫好きで、建築家のようなアウトドアなタイプは犬好きなのかなと。

「そうですかね? 僕の周りではそんな感じはしませんが。僕自身でいえば、猫アレルギーだったので、幼い頃は猫とあまり接触したことがなかったんです。なので猫と暮らすのはHattyが初めて。そもそも、あまり動物が好きじゃないんですよね。面倒をみたりすることが苦手というか……」

—ではなぜHattyさんを飼うことに?

「もともと猫が好きだったんですよね。起業していろいろと忙しく、将来に対して不安になることがありますが、そんなときふと、猫を飼ってみたいなと思うことがちょくちょくありました。そういうタイミングでHattyと出会ったという感じです。それと僕は木造アパートを改修する仕事をしていて、ここも元々は改修依頼をうけた建物なのですが、オーナーさんと意気投合して、結局最低限の改修だけをして自分達のオフィスにしました。こういう古い物件だと、どう改装してもいいのでとても自由なんです。そういう意味でもペットを飼うことに特に障害はなかったので気にせずに飼うことにしました」

—Hattyの由来は?

「本当の名はHarrietなんです。昔イギリスに住んでいたので、その時代のイギリス人の親友に英国風の名前をつけてもらいました。彼は教師をしていて、Harrietという名前の生徒が3人もいたらしいんですけど、面白いのはそれぞれ3人のHarrietの性格が全く違うということです。その多面性が猫っぽいなと思い、いくつか候補があった中で、Harrietと名づけることにしました。Hattyは愛称です」

—実際にHattyさんと一緒に暮らしてみてどうでしたか?

「想像以上に、癒されます。犬は散歩に連れて行かないといけないですよね。僕は他者に自分の時間をとられるのがストレスなので(笑)、猫は手がかからないのでとても楽です。でも猫って、もっと勝手にやってくれると思ったのですが、意外にかまって欲しがる。その塩梅もちょうどいいんですが」

昼と夜で顔つきの違う猫

—Hattyさんがやってきて、一番の変化は?

「モノが空間から無くなりました。机に飾っていた花なども倒してしまうので、今は何も置かないですし、キッチン周りも使ったらすぐに片付けるようになりました。最初は猫アレルギーだと思っていたので、毎日、床を水拭きもしていました。多少はキレイ好きになったかもしれません」

—猫と暮らすことで、発見はありましたか?

「昼と夜で、顔つきに違いがあることですかね。昼は動きもシャープで顔もピエロっぽい。夜は黒目が大きくなってぬいぐるみみたいでまた違った雰囲気を放っています。テンションも切り替わりが激しくて、急に興奮して走り回ったかと思えば、膝の上に乗って甘えてきたり、基本的に彼女が何を考えているのかよくわかりません(笑)」

—連さんとHattyの関係性は?

「甘えてくるときもあれば、どうでもいいって思われているような時もあります。今は、まだ飼い始めたということもあってうまく言語化できないんですけど、お互いリラックスした関係性ではあると思います。ひとつ気になっているのは、いつも同じ家にいて暇にならないのかなって……。もっと遊んであげたほうがいいのかなって心配になることがあります。僕は外に出て行くことも多いので、ずっと家にいるわけじゃないですし。同じ家で割と毎日同じ日常を生きていてメンタル的にどうなんだろうって思います。退屈っていう概念が猫にあるのかないのか。今まで人間の価値観のみで生きてきたので、急に言葉の伝わらない謎の生き物と暮らすようになって、何がお互いにベストな関係性なのか、そういうことは考えてしまいます」

—猫にしかない魅力とは?

「フォルムや関節の動きがとっても美しくて見とれてしまいます。それと、まるく可愛らしい佇まいをみせたかと思えば、シャープですくっと神々しい姿勢になって独特のオーラを放つ。そういった七変化するカラダの動きには見惚れてしまいます」

猫と暮らすために

—Hattyさんと暮らしはじめて、住環境の変化はありましたか?

「キャットウォークを作ろうと板などを購入したのですが、すでに階段など走り回っているのでわざわざ設置しなくてもいいかなって。改装するにしても、これからですね、それもこれからの楽しみのひとつです」

—最近ではペットの数は急速に増えているのに、ペット可物件自体はまだまだ少ないですよね。

「今の賃貸だと、ペット可という条件や制度をわざわざつくらないとなかなか飼えないというのが難しいところですよね。契約の段階で、〇〇をしてはいけないという条件がどんどん厳しくなっていく社会なので。でも、この家のように、完全に管理されなくてもいいという住宅は、実は世の中にたくさんあります。だから、ペット可物件を増やすということではなく、そういった物件がもっと市場で当たり前に出回る社会をつくる必要がある気がします。信頼関係の上で成り立っていける社会をつくることが必要ではないでしょうか」

—そもそもペット可だとしても、小型犬はOKで猫は壁を引っ掻くからダメという大家さんもいますよね。

「たぶんみんなキレイに住もうとしすぎなんですよ。すべての物件が、新築みたいである必要はない。古い物件は古いなりに、壁や窓枠が汚れていたら、そこを猫がちょっと引っ掻いたくらいは気にならない。むしろ、汚れではなく味わいになったりする。そういった時間の蓄積を活かしていけばいいと思うんです。僕らがやっている『モクチン企画』の仕事で言えば、古い物件をキレイに新築に似せたように改修したとしても絶対に新築には勝てない。だからこそ、古い物件なりの空間のよさを引き出して、その魅力を最大化していく。新築みたいに空間を保存し続けようとしたら、どんな動物でも難しいと思います」

—そう言われると、みんながみんな、新築みたいな真っ白な壁紙に住みたいってわけじゃないですよね。

「日本は高度にサービス化されてしまっていて、ご飯を食べるにも、何かを買うにしてもキレイなところがよしとされている。新品が提供される環境にあるんです。でもちょっとずつ、変わってきていると思います。今までの新築などの考えではもう生き残れないわけで。あたらしい暮らしの考え方が増えていると実感しています。今、ペット可物件のオファーも来ているので、今後いろいろと発表できると思います」

  • 名前: Hatty
  • 年齢: 6ヶ月
  • 性別:
  • 品種: 雑種
  • 飼い主プロフィール:
    連勇太朗(むらじ・ゆうたろう)
    建築家、1987年生まれ。モクチン企画代表理事、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科後期博士課程在籍中。2009年より「木賃アパート再生ワークショップ(現:モクチン企画)」の代表を務める。
    http://mokuchin.jp/
    http://instagram.com/yutaroren