猫たちの細かな表情を刺繍で表現する刺繍作家・小菅くみさんは、黒猫のおはぎさんと白猫のおもちさんの2匹の猫たちと暮らしています。幼い頃からたくさんの動物に囲まれて育ってきたというくみさん。2匹暮らしになってからより愛おしくなったという猫たちについて伺いました。
動物病院での出会い
—2匹の猫たちとの出会いは?
「おはぎもおもちも、同じ動物病院からやってきました。21年間飼っていた猫が亡くなってしばらくした頃、動物病院の先生から“そろそろ寂しいんじゃない? いい子がいるんだけど見に来ない?”って連絡があったんです。正直、飼う気は無かったのですが、見るだけならと思って病院に行きました。他にも黒猫の赤ちゃんが何匹かいたらしいのですが、すでにみんな貰われていって、おはぎだけが残っていました。抱っこしたら、もうこれはヤバイと。1日だけ預かりますっていいながら連れて帰ったのですが、すでに心は飼うと決めていました」
—おもちさんも同じ動物病院で?
「おはぎと暮らし始めて1年くらい経った頃、また先生から連絡が来たんです。さすがに2匹は難しいかもって思ったのですが、“目が見えない猫で貰い手がなかなかつかなくて”と言われて……。しかも写真もいっぱい送られてきて、抱っこだけでもしにこない? って誘い文句につい負けてしまい、また見に行ったんです。実際におもちに会ったら、目も見えないし可哀想になってしまい、うちにおいで! って飼うことにしました」
—2匹目だと先住猫との相性も気になる所ですが。
「最初は、おはぎとの相性を心配していました。でも連れて帰った日から、全然平気で、おもちのことをペロペロと舐めて世話していました。その後、おもちは目の病気を治療するために何度も病院に通い、訓練のかいあって下半分は見えるようになりました。いまでは病気を感じさせないくらい、人一倍やんちゃです」
—以前飼っていた21年生きた猫というのは?
「兄が高校生の時、学校で2匹の猫を拾ってきたんです。1匹はすぐに亡くなってしまって、もう1匹がチャクラという名前で21年生きました。キジトラの雌猫でした」
—21年はかなり長生きですよね。
「ずっと元気な猫だったのですが、さすがに21歳になったら寝たきりになってしまって、母がそろそろ危ないかもって猫のお墓などを調べていたら、その気配を察してか、そこからご飯を急に食べるようになって急に元気になったんです(笑)。そこから、また半年生き延びて。最後は、膝の上で息を引き取りました。実は、チャクラを飼っていた頃、柴犬も飼っていたんです。父がペットショップで“自閉症のため半額”って書いてあった売れ残りの犬を、可哀想だと連れて帰ってきて。当時、犬は番犬として飼われていたから、自閉症の吠えない犬は人気がなかったんですね。十数年飼っていましたが、全く吠えず、亡くなる直前にコホン……と鳴いたくらいでした」
人懐っこい黒い猫とやんちゃな白い猫
—おはぎさんは、どんな性格ですか?
「最初、ものすごく噛む猫だったんです。噛まれすぎて、私の腕がズタボロになってしまって……。周りの友だちにも、悪魔が来たねって言われるくらい怖かったんですよね。でもある時、仕事で家をあけなければいけなくて、不在の間、猫親戚たちがみてくれることになったんです。10日間くらいして帰ってきたら、全く噛まなくなりました。(坂本)美雨ちゃんに“噛み癖、治しておいたから”って言われて。どうやって治したか全然わからないんですけど(笑)。 まあ治っていたからよかったなって。いまではものすごく穏やかな性格です」
—おもちさんは?
「最初からおはぎに優しくされて、安心していたみたいです。子猫の時は、おはぎの後に着いていって、よくじゃれていました。おとうさんと息子みたいな関係なのかな。それよりも私自身が、先住猫よりも新しくきた小さい子猫に夢中になって、おはぎのことをないがしろにしてしまうのでは……という不安がありました。でも2匹になり、おはぎがすごく優しい猫なんだとわかってからは、より一層、おはぎのことが大好きになりました」
—黒猫と白猫は、先天的な性格も違うといわれますよね。黒猫のほうが人懐っこいとか。
「そうですね。おもちのほうが甘えん坊ですが、私にしか懐いていない。おはぎは暴れたりしないし、人見知りもせず、大人しいですね。おもちはやんちゃなところがありますが、2匹がくっついて寝ていたり、舐めあっていたり仲良くしていると、愛おしくなります」
—くみさんにとって、猫の存在は?
「小さい頃から猫のチャクラや柴犬たち、ハムスター、金魚、めだか、鳩といった動物が身近にいた環境で育ったので、生き物がいること自体が自然なことです。だから、猫たちのことも、とても頼りにしています。落ち込んだり、疲れていたりする時にギュッとする。猫たちの存在がないと、とても辛くて生きていけない。この癒しのチカラは、猫だからなのか、おはぎとおもちだからなのかはわかりませんが」
猫の“目”を刺繍する
—刺繍をはじめたきっかけは?
「仕事をしていた時に病気になってしまい、入院先でやることがなくって刺繍をはじめました。それをみた友人たちが、これを仕事にすればいいじゃんと言ってくれたのですが、最初は自信がなくって。でもあれよあれよという間に、ここで売ってよと、声をかけてもらうようになったんです」
—最初から猫を刺繍していたのですか?
「いえ、最初はいろんなモノを刺繍していました。友人に頼まれて猫を刺繍するようになってからは、オーダーも受けるようになりました。猫の写真を2~3枚もらって作ります。たまにピンぼけや耳が切れている写真が送られてくることもあって、そんな時は、この猫はきっとこんな姿だろうと想像して刺すこともあります」
—似させるコツは?
「目の形ですかね。目が似ないと、全然雰囲気が違ってしまうんです。シルエットや毛並みよりも、目が1番大切です」
—1匹の猫を完成させるのに、どれくらいかかるのでしょうか?
「んーちょっとわからないですね。2日くらいでしょうか。同時進行で進めているので、気がついたらできているというか。夜中にチクチクすることが多いのですが、呑みにいかなければもっと早くできると思います(笑)」
—今後の予定は?
「マイケル・ジャクソンやデビッド・ボウイなど著名人が猫を抱いているシリーズを制作しています。今秋のCat‘s ISSUEのイベントで販売します。あとは来年、京都の誠光社で個展があります。そこでは、文豪と猫というテーマで制作する予定です」