アーティスト・アラキミドリ × ウィズダム — お散歩する猫

May 20, 2011 / Interviews

Photo: Shin Suzuki / Edit&Text: Madoka Hattori

美大を卒業後、ライフスタイル誌の編集長を経てアーティストに転向した、アラキミドリさん。切り株がモチーフの椅子『Stump』や熊の形をしたテーブル『Polar Bear』など、アラキさんの作品に囲まれて暮らすのが、チンチラの愛猫ウィズダムさん。お気に入りの場所である、庭の木陰でまどろむ姿は貫禄たっぷり。カメラに嫌がることなく優雅に散歩する、マイペースなウィズダムさんに癒されます。

突然やってきた3匹の猫

—ウィズダムさんとの出会いは?


「“あなたは絶対、猫と相性がいいと思うの”と、友人が突然3匹の生まれたての猫を家に連れてきたんです。友人がそういうなら…と丸1日悩んで飼うことになりました。3匹のうち2匹は雄で、活発でプライドが高そうだったのですが、ダムはゲージから最後にのっそりでできて(笑)、他の子に比べてやわらかい印象だったのでダムに決めました」

—それまで、猫を飼ったことはあったのですか?


「実家で犬を飼っていたのですが、世話は親まかせだったので、ほとんど初めての経験でした。ましてやまだ2ヶ月の子猫だし…おしっこの世話も全くわからなくて。ダムを飼うと決めてから他の2匹を返しに行き、必要なトイレや餌を買いました。ダムは、家に来てからずっとおしっこをしてはいけないと思っていたらしく、トイレシートをおいた瞬間にジャーと出したんです。ずっと我慢していたようで、しつけなくてもトイレを覚えていたので偉いなと思いました」

—家にもすぐ馴染んだのですね。


「そうですね。すべてが自分の陣地だと思っているので、季節によっていろんな場所で寝ています。冬はちょっと寒いかなと思って、私のセーターを敷いたのですが、朝起きると椅子で寝ていることも。おとなしい猫種だからか、駆け回ったりはしないですね。たまに、ハンタートレーニングをするぐらいで、普段はソロソロソロ〜と動いています」

—イタズラも全然しないのですか?


「おしっこくらいですかね。一度、寝室のベッドにしたことがあって、それからその場所の匂いをかぐと、おしっこをする癖がついてしまったんです。最近はあまりしなくなったのですが、しばらく大変でした」

—ウィズダムという名前はどこから?


「以前、アメリカのセドナで、フラワーチルドレンの後継者が営業している施設に泊まったんです。そこでチャネリングをした時に、“ウィズダム=知恵・叡智“という言葉がよくでてきて。猫はマイペースだし、器が自分よりも大きいと思う時があります。木や植物も同じですが、神様というか、人間の手の及ばないところが知恵者のように感じて、ウィズダムと名付けました。でもだんだんウィズダムって呼ぶのが面倒くさくなって(笑)、最近ではダムって呼んでいます」

ベランダと庭へのお散歩が日課

—愛用のおもちゃはありますか?


「ないです。全然、遊んでくれないんです。手で甘噛みするぐらいかな。子ども用のオモチャがあるので、気分が乗るとボールで遊んだりもしましたけど。最初ダムは、加減をしらずに近づいてくる子どもが嫌いで、でもある時からしょうがないと思ったのか、子どもに抱っこされると“ダラ〜ン”としています(笑)。子どもだとわかって、諦めたみたいですね」

—お気に入りの場所は?


「椅子や階段、ベランダとかですね。どうやら家の庭が“猫の通り道”になっているみたいで、窓から庭をジッと見ています。その姿は、外から見るとまるで置物みたいなんですけど(笑)。ダムは毎朝、パトロールをするんです。ご飯を食べたらベランダにでて、ひとしきりチェックしたら、“ドアを開けて”と呼んで庭に出る。ぐるっと一周したら、虎が木陰で寝るみたいに、大きな葉っぱの下で休むんです」

—外に出しても逃げないのですか?


「家の敷地内からはあまり出ないですね。たまに、よそ見していると30分くらい脱走して、帰ってきた時はものすごい低姿勢になっていますけど(笑)。猫草よりも雑草が好きみたいで、自分で選んだ草を食べています。散歩している犬も多いのですが、全く興味は示さないですね。ただ、蝶々はハンター精神が目覚めるのか、かなりの的中率で捕まえています」

—餌やトイレのこだわりは?


「カリカリは『Nutro』のアダルトチキンで、猫柄の缶に入れて保管しています。ダムは蒸したささみが大好きなんですよ。人間のモモ肉には興味をしめさないのに、不思議です。餌はいつも、私の手の平から一粒一粒食べるんです。お皿に入れたままだと“ニャーッ”と呼ばれて、一粒のせてはペロッ、一粒のせてはペロッと。たまに、忙しくて相手をしないとこっそりお皿から食べていて、でも私が行くと食べていないフリをするんです(笑)。他には、無糖ヨーグルトも食べます。ヨーグルトは、ザラッとした舌の感触が好きなので、あえて手につけて舐めさせています。トイレは、便座の横に置いています。人間が用を足す時に、一緒にするんですよ」

—お風呂は入りますか?


「あまり頻繁には入りません。ブラッシングはするのですが、すぐに毛が固まってしまうので、なでながらほぐしたり。毛が入れ替わる春から夏にかけては、自分で舐めて胃に毛玉ができ吐いてしまうので、なるべく舐めないようにブラッシングは気をつけています。猫が吐く時って…ちょっと顔が怖いじゃないですか。エクソシストみたいな(笑)。初めて吐いた時はビックリして、病気かなと思ったのですが、吐いた後はすましているので拍子抜けしますよね」

気を使わないところが好き

—実際に猫を飼ってみて、何か発見はありましたか?


「物を作ったり、文章を書いたり、一人で家にいることが多いので、気分転換として猫に相手をしてもらっています。犬とは違って、基本的に猫は嫌がっているじゃないですか、そういう態度が好きですね。猫の一番好きな所は“匂い”。タオルに顔を埋めるように、猫が寝ている所に顔を埋めるのが好きなんです。匂いや心臓の音とか、動物としての安心感を感じます」

—ウィズダムさんは、アラキさんの気分を察しているのでしょうか。


「いやー、どうですかね。風邪を引いてすごく辛いのに、餌を手で食べさせろってしつこく言いに来るくらいですから(笑)。だから、あまり察してもらっている気はしないですね。その気を使わないところが好きなんです。でも悲しい時に近づいても逃げなかったりすると、受け止めた風にしている。そういうところも好き。とはいえ、こちらが思っているだけで、本当の気持ちは解らないですけどね」

—カメラを全く嫌がらないですね。


「雑誌『流行通信』などで連載していた時、よくモデルになってもらいました。作品撮りの時も、子役?として登場してくれて。ダムは”ニャーニャー”言いながらも、どんどんリクエストに応えてくれるんですよ」

—震災やまだまだ続く余震で、おびえたりはしませんでしたか?


「地震が起きた時はダムの近くにいたので、すぐ抱いたのですが、揺れが止まらず、抱いたまま家の外にでました。それから、ダムは余震があると玄関で待っているんです。家だけが揺れていて、外にいけば大丈夫と思っているのかも。今は防災対策として、ゲージといつも食べている餌を2kg用意しています。犬用ですけど、リュックにもなるので便利です。ダムは飛行機にも乗り馴れているので、ゲージもあまりいやがらないんです」

—ご自宅には、猫グッズが全然無いですね。


「いわゆる猫をデザインぽく、グラフィカルに描いてあるものには全く興味が湧かないんですよね。でも唯一いいなと思ったのが、NYのMOMAで買った写真のカードです。これを見ていると、猫って色んな表情をするんだなと。猫を飼う前で、あまり見たことのない変な顔が素敵!と思って、特別猫が好きだったわけでもないのですが、買っていました」

—アラキさんの作品の中には、クマやネズミなど動物がモチーフになっている作品が多い気がします。


「どちらかというと、家にはウサギの物が多いかな。かといって、ウサギが好きかと聞かれると、そうでもなくて…。動物は形が面白いので、単純に興味が湧くのかもしれません。ネズミも可愛いと思えば可愛いけど、気持ち悪いと思えば気持ち悪いですよね。そういう2面性を感じる生き物が好きです。でも、爬虫類をモチーフにしたことはないので、毛が生えている生き物が好きなのかも」

猫の習性を生かしたデザインとは

—今後、新しい作品を発表する予定はありますか?


「今はペンダンドライトとブックシェルフ、壁掛けの時計など、プロダクトを試作しています。上手くいけば、今年中に発表できると思います。本当は作品制作をしたいのですが、今はまだ子どもが小さく自分の時間があまりなくて難しくて。プロダクトだと、メーカーさんと一緒にできるので、しばらくはプロダクトが多くなると思います」

—キャットタワーなど、猫のオモチャをデザインしたいとは思いますか?


「猫の習性は大分解ってきたので、猫が入ってくれそうなモノを作りたいですね。以前、藁で編んだ『猫ちぐら』が欲しいなと思ったのですが、ダムは大きいので既存の物だと入らないかなと。藁の職人さんは、こちらである程度の形をつくると、どんな形でも編むことができるらしいんです。丸いだけでなく、流動的な洞窟みたいな形とか。中に鍾乳洞のつららみたいなものがあると、面白がってくれるかなと思います。でもまずは、キャットタワーから手がけたいですね。子どもが産まれてから、子ども服やおもちゃなどのマーケットの広さにびっくりしたのですが、子ども用品は日用品なので、実用性としての制限がありますよね。でも猫などのペットグッズはコレクターというか趣味性があるので、少し変わったモノでも受け入れてもらいやすいのかなと思っています」

  • 名前: ウィズダム
  • 年齢: 5歳
  • 性別:
  • 品種: チンチラゴールデン
  • 飼い主プロフィール:
    アラキミドリ
    1990年多摩美術大学グラフィック科卒業。雑誌『ELL DECO』『gap』の編集長を経て、1999年からデザインとアートの境界線上で制作を開始。2001年、作品集『JUNK SWEETS』(アスペクト刊)を発表した。2002年にはフランス政府の文化奨学給付金を得て、パリとマルセイユのアーティストレジデンスに滞在。パリとドイツのカールスルーエで展覧会を開催後、2004年に帰国。現在はプロダクトデザインをはじめ、空間演出、映像インスタレーション、書籍出版、企業とのコラボレーションなど、活動は多岐に渡る。
    www.arakimidori.com