ロンドンのクリエイティブ集団 TOMATO のメンバーとして、またWieden+Kennedy Tokyoのエグゼクティブクリエイティヴディレクターとして活躍する長谷川踏太さん。ロンドンと東京を行き来する生活をしながら、まだ7ヶ月の若い愛猫・ツキジさんと暮らしています。ロンドンでは黒猫・inkさんを飼っているという長谷川さん。イギリスと日本のペット事情についてもお伺いしました。
猫がいない生活に耐えられなかった
—長谷川さんはもともと、ロンドンでも猫を飼っていたそうですね。
「ロンドンの家ではink(インク)という黒猫を飼っています。去年から単身赴任で東京に住んでいるので、毎日、Skypeごしにinkと会っていたのですが、野良猫を見つけるとついていってしまうくらい、猫に対する気持ちが末期症状になってしまって(笑)。もういい大人なんだし、我慢せずに好きにしていいだろうと思い、東京でも猫を飼うことにしました」
—ツキジさんとはどうやって出会ったのですか?
「築地で開催されている里親募集の譲渡会で出会いました。だから名前もツキジ。まだ7ヶ月で、うちにきたのも2ヶ月くらい。本当は黒猫をもらいに行ったのですが、ツキジを見た時に、こいつは顔の柄がぐちゃぐちゃだから貰われにくそうだなって思ったんです。黒猫は人気だけど、貰い手がいなかったらこいつはかわいそうだなと、ツキジに決めました。でも一緒にいるとだんだんと、いい焼き物を愛でているような、味わい深い柄に見えてくるんですよね」
—ロンドンで暮らすinkはどんな猫ですか?
「妻の友人がやっている牧場で、子猫が5~6匹産まれて、そのうちの1匹をもらいました。子猫の時から育てて、もう2歳になります。イギリスの猫に比べると、日本の猫は手足が長い印象があります。ツキジはしっぽも長くて、手足もシュッとしているけど、inkは、手元がボテッとしている。あといたずら好き。雄と雌の違いも感じます。ツキジは湿っぽいというか、芸者のような仕草をするんです。甘え方もツキジのほうがしつこいかな。inkが子猫の頃に東京に来てしまったので、大きくなった姿をみると、ちょっとびっくりします。年に2〜3回しか帰れないので、可愛い印象のままなんですよね」
—しばらく会わないと、忘れられてしまいそうですが。
「猫って覚えているのか覚えていないのか、わらかないですよね。人懐っこい性格なので、久しぶりに会っても隠れたりせずに懐いてくれる。inkはご飯第一主義なので、ご飯をくれれば誰でもいいのかもしれない。でもつきじはご飯にあまり執着がなく、帰ってくるとまず遊んで! とおもちゃを差し出します。多分、保護されたところでご飯をたくさんもらっていたからか、飢えを知らないんだと思います」
—inkに出会う前、猫を飼ったことはあったのですか?
「僕は小さい頃からマンション住まいだったので飼えなかったんです。でも、猫に対しては興味もあったし、かわいいなとずっと思っていて。イギリスでは田舎の広い家を借りられたので、飼うことにしました。いまは父親も猫を飼っていて、いとこも飼っていたりと、猫家系なんですよ」
—実際に猫と暮らしはじめて、発見はありましたか?
「思ったほど、来てくれないですよね。来て欲しい時に来てくれなくて、来なくていいときに来る(笑)。眠たい時や疲れている時に限って、テンション高めで寄って来て、こっちが遊ぼうよと声をかけるとスカされたり。そういう絶妙なタイミングを持っているから、人間と長く付き合ってこれたのかもしれません」
日本とイギリスのペット事情
—ツキジさんのお気に入りのおもちゃは?
「まだ子猫だから遊ぶのが大好きで、セロファンがついた猫じゃらしでいつも走り回っています。遊んで! 遊んで! というアピールをしてきて、僕が行動する先を読んでおもちゃを置いていたり、ものすごく僕のことを観察している。あとは、amazonで購入した組立式のキャットタワーもお気に入りで、一番上に登って遊んでいます」
—日本とイギリスのペットグッズの違いは?
「日本は安くていろんなバリエーションのグッズが多い。ご飯にしても真空パックされた魚があるので、ロンドンに帰るときのお土産にしています。デザインについては、正直あんまりこだわりはないんですよ。変な曲線のモノが多いのは気になりますけど。トイレはコジマで買ったフタ付きのタイプ。閉まっている方がにおわなくていいかなと。ロンドンでは木の箱に砂を入れてトイレにしています。ご飯は、ツキジはロイヤルカナンのカリカリとウエットを半々。お水も軟水のものを。inkは尿道結石になってしまったので、専用のカリカリをあげています」
—人間とペットの関係性は国によって異なるのでしょうか。
「イギリスの人たちはあまり可愛がらないですよね。もちろんきちんと世話はするのですが、日本人は猫に接するときに人格が変わったりするじゃないですか。僕もなんですけど、急に赤ちゃん言葉になってしまったり(笑)。そういう人はあまりいないと思います。イギリスでは、家を留守にするときに鍵を預けて面倒をみてくれるキャトシッターという職業があります。ご飯とトイレの世話をして、1時間くらい遊んでくれます。猫は家につくものだから、旅行にいくからといって人の家に預けることもあまりしないですね」
—犬猫を販売する「ペットショップ」があるのも日本くらいですよね。
「動物愛護の精神が強いのかもしれません。イギリスだと犬や猫を飼いたいと思ったら知り合いの子猫をもらうか、もしくは行政がやっている保護センターにいく。そこでは厳しい審査があって、収入がきちんとあるかなど、チェックされます。また日本はなかなか難しいですが、ペットNGな物件もあまりない印象ですね」
猫の前だと素の部分をみせてしまう
—お気に入りの猫の本やグッズなどは?
「ウィリアム・バロウズの『内なるネコ』やカート・ヴォネガットの『猫のゆりかご』はよく読んでいました。また内田百閒や赤瀬川源平など、猫を飼っている人のエッセイも好きです。猫を飼いながら、猫のエッセイを読むのはゴージャスな感じがしませんか? 俺んちにも、猫いるぜ! みたいな(笑)。上手い寿司を食べながらグルメ番組をみている気分。だから好きですね。実家の『文化屋雑貨店』では、inkの写真をプリントしたポーチやクッションなどの猫グッズをたくさん扱っています。父が飼っている猫もグッズになっています」
—いずれロンドンに帰るときは、ツキジさんを連れて行くのですか?
「事前に申請すれば、飛行機に手荷物として一緒に連れていけるんです。それもあって、東京でも飼うことを決めました。まさかツキジは、これから海外に行くとは思ってもないだろうけど(笑)」
—長谷川さんは、猫とはわりと距離をとって接しているタイプですよね。
「いやいや取材が終わったら、豹変してデレデレしていますよ。猫を飼っている友人とは、延々と猫の話ばかりしていますし。以前「Web Designing」という雑誌でコラムを書いたのですが、猫にイカれてしまう人って科学的根拠があるんですよ。ニューヨーク・タイムズの記事によると、猫の持っているトキソプラズマという寄生虫が、人間の身体に入ると繁殖できず、宿主である猫の体に戻ろうとする。だから、寄生された人間は寄生虫が脳の働きに作用して、猫とボディコンタクトを頻繁にとるようになると。つまり、猫が好きで猫と一緒にいたいと思うのは心理的なことではなく、科学的なことであるという説です。なんて、猫に夢中になっている言い訳のようですが(笑)。でも猫といる時の自分は饒舌になるというか、酔っぱらっているときと同じ。ついついパカっと、素の部分をみせてしまうんですよね」