映画「百万円と苦虫女」「俺たちに明日はないッス」で監督を、映画「さくらん」では脚本を手がけ、11月には窪美澄さんの小説を映画化した「ふがいない僕は空を見た」の公開も控えている、映画監督のタナダユキさん。ひるねさんとごろねさんというなんとも羨ましい名を持つ、2匹の猫たちと暮らしています。兄弟のように仲の良い猫たちのリラックスした姿を捉えました。
ずっと猫を待っていた
—“ひるね”と“ごろね”って、ユニークな名前ですね。
「一番好きなことを追求したら、この名前になりました。病院に行くと必ず笑われますけど(笑)。白とキジのひるねは人懐っこい性格です。小顔ですが腹が出てます。白黒のごろねは律儀で世話好きですが人見知りなので、初対面の人がいると最初なかなか出て来ないんですよ」
—2匹の猫との出会いは?
「ひるねは、道ばたで死にかけているところを知り合いに拾われたんです。ガリガリでノミだらけだったそうです。そのお宅はすでに2匹飼っていて、新たに飼うことが難しかったので、うちにやってきました。今はもう元気になりましたが、少し鼻が悪くて、気管支炎も持っています」
—以前に猫を飼ったことはあったのですか?
「実家で飼っていました。上京しても、ずっと飼いたいと思っていたんです。だからペット可の物件に引っ越して、スタンバイしていました。それから、ちょうど1年くらいして、ひるねに出会ったんです。誰がうちの子になるかというのは、縁だと思うんですよね」
—猫を飼う前からペット可の物件に住むとは用意周到ですね。
「猫が飼いたくて、限界がきていたんです。仕方なく植物を育てていたのですが、“猫が足りない!”という感じで。映画の現場では体育会系な能力も必要とされます。どちらかというと、監督業は苦手で、家にいるのが好きなんです。撮影後に疲れるとモフモフして猫チャージします。猫好きな人がいたら猫チャージしに来たらと誘っています」
—なぜ2匹目を飼い始めたのですか?
「ひるねが窓越しに野良猫に話かけていたんです。見るからに友好的に“遊ぼうよ!”と話しかけては、完全に無視されていて(笑)。家を留守にしている時にさみしいかなと思い、もう一匹探し始めました。それで知り合いのツテを辿って、生まれたてのごろねを譲り受けました。親猫がすでにトイレのトレーニングをしっかりやっていたので、猫のルールは一通り覚えていました。ひるねは、トイレの後に砂をかけることもしなかったのですが、ごろねが砂をかけるのを見て、自分でもかけるようになりました」
—2匹の相性は最初からよかったのですか?
「いえ、大変でした。ごろねはウチに来る道中、車で移動中に酔ってしまったのかゲロを吐き、おしっことウンチもしてしまって……。家に到着して、すぐに丸洗いしたので、ゆっくり対面させることもできなかった。ドライヤーで乾かしている時に、ひるねは“仲間がきた!”と思って突進してきたんです(笑)。猫の社会にしつけられたごろねは、“いきなり突進してくるなんてありえないっ”といった感じで、ずっとシャーッと言い続けていました。これは失敗したかな……と思っていたのですが、ごろねが寝ているときにひるねを近くにおいてみたりして、一週間くらいしてようやく慣れました2匹いることで、影響し合うこともあるようです。砂をかけることもそうですが、ひるねは高いところから降りる時に“ニャッ”と声がでるんです。ごろねもしばらくして“ニャッ”と言うようになりました。人間でいうと“よいしょっ”というところでしょうか。2匹だと勝手に遊んでくれるので、私もちょっと楽ができます」
万が一に備えること
—実家では、どんな猫を飼っていたんですか?
「田舎だったので、拾ってきたりもらってきた猫がほとんどです。犬やうさぎもいましたし、父がイタチを拾ってきたこともありました(笑)。昔飼っていた猫が、私が家に帰ると駆け寄って“ニャーニャー”言いはじめたんです。子ども心に無視してはいけない気がしてずっと聞いていたんですが、一通り鳴き終わったらスッキリした顔で去っていったんです。愚痴だったのかもしれない(笑)。今でも、ひるねが“ニャーニャー”言ってきたときは相づちをうって聞いてあげます。そうすると鳴き止むんです。トイレに行く前にも鳴いて、こちらが“ハイハイ”と返事をするとトイレに行く。2匹とも要求があるときは自在に声色を変えるのも面白いです」
—兄弟のように仲良しですよね。トイレやおもちゃのこだわりは?
「トイレは1つです。おもちゃは遊ぶときりがないのですが、猫じゃらし型のおもちゃが一番好きですね。爪研ぎはポール型のものと、段ボールで出来たものを置いています。また、爪跡対策というわけではないのですが、床にコルクでできた板を敷いています。冬は暖かいのでいいですよ。ごろねはミシン用の椅子がお気に入りで、買ったその日に私の椅子よって感じで座っていました。でも不思議なことに、ひるねはその椅子には座らないんです。“あれはごろねのだよね”って感じで。でも猫用クッションにごろねが居ると、ひるねはガブリと噛んで追い出します」
—ごはんの好みについてはどうでしょうか。
「ひるねは最初ガリガリだった上に小食で、これはマズいと思い常時ごはんを用意していたのですが、単にちょっとずつ食べてトータルで沢山食べる猫だったみたいで、あっという間に6キロに……。獣医さんにダイエットしましょうといわれて、『ロイヤルカナン』のダイエット食をあげています。ひるねはウエットに興味がなく、元野良だから、ウエットだと腐ってしまうとかカリカリ神話があるのかも。ごろねは食べ物にうるさくて、ウエットタイプの『CIAO 焼きかつお』が好きなんです。これをもらうためには、プライドを投げ捨てて腹を出してゴロゴロ転がってアピールしてきます(笑)」
—定期的に病院には通っていますか?
「最近、ごろねが肛門線炎になってしまったんです。半日入院して手術もしました。ひるねは気管支炎があるので、ゼーゼーし始めたら吸入をするために連れて行きます。6キロ超えると手持ちができないので、リュック型のキャリーを探しました。震災後に、緊急用として乳母車タイプのキャリーも用意しています。万が一のときのために、重さを考えると一人で手持ちや背負うのもなかなか難しいかなと」
芝居をしない猫の魅力
—猫にまつわる好きな本や作品はありますか?
「大島弓子さんは大好きです。『綿の国星』は金字塔ですよね。かわいいし切なくなる。とはいえ、猫モノにそんなに特別熱心に惹かれることはないかな。猫グッズよりも、猫そのものに興味があるんです」
—映画「百万円と苦虫女」では、同居人が猫を捨ててしまうところから、物語が展開します。少なからずタナダさんの想いが出ているのでしょうか。
「あの話は友人の実話を元にしています。映画の中では猫が事故にあう設定なのですが、猫が好きだからこそ、その怒りや悲しみがわかるということはあると思います」
—猫が主人公のストーリーを考えたりはしますか?
「いかに猫が芝居をしないか知っているので(笑)、撮影のことを考えるとなかなか難しいですね。猫が主人公というよりは、やはり人間がいて、そこに猫がどう関わってくるかということで話は創作できるかなとは思います。どちらかというと、エッセイのネタにはなりやすいですよね。連載などでネタに困ると猫の話をもってくることはあります」
—タナダさんが考える、猫の魅力とは?
「すごく主張があるところでしょうか。性格も違うし、これが好き、これが嫌いと、猫なりに自分の意見がある。そこが一番面白いですね。単なる癒しや愛玩のようなことではなく、きちんと意思を持った生き物がそばにいることが嬉しい。駆け引きがあるんですよね。いかにごはんをもらうかとか、友人が遊びに来ると遊んでくれる人かどうかを見分けている。言葉が通じないだけで、非常に感性豊かな、侮れない生き物ですね」