40年以上にもわたり資生堂企業文化誌『花椿』のアートディレクションを努め、また松屋銀座、ワコールスパイラルなど数々のコーポレート・アイデンティティ計画も手がける、日本を代表するグラフィックデザイナーのひとり、仲條正義さん。根っからの猫好きとあって、昨年HBギャラリーで開催された個展「CATS」では、愛嬌のある猫たちをたくさん描いていました。現在、一緒にくらいしている愛猫・小吉さんとの暮らしについて伺いました。
冒険好きなやんちゃな猫
—小吉さんとの出会いは?
「雌と雄猫の兄弟を22〜23年くらい飼っていたんだけど、5年前に亡くなりました。家内が亡くなって一人暮らしになり、やはり猫がいないと寂しいなと感じて、知り合いにもらったんです。アビシニアンと言っていたけど、毛色も違うし、いろいろ混ざっているのかな。ウチに来た時は手に収まるくらい小さかったので、小吉(コキチ)と名づけました」
—幼い頃から猫と暮らしていたのですか?
「物心ついた頃から、猫がいたんですよね。犬もいたことはあるけど、猫はずーっと一緒。前に公園で拾った猫を世話したこともあったんだけど、1日も居ずにいなくなっちゃった。猫って不思議なもんだね」
—小吉さんは全く人見知りをしないですね。
「そう、人がスキで。というよりも、家の外がスキなんです。しょっちゅう脱走するし(笑)。3年くらい前に脱走した時は、学校の道具入れの中に紛れ込んで出られなくなってしまい、3〜4日してようやく居場所がわかったことも。今年の正月にも逃げて、空き家の縁の下にいるのを近所の人がみつけてくれたんです」
—だから玄関にお礼の貼り紙があったのですね(笑)。
「猫って、人間っぽいところがありますよね。呼べば来るし、膝の上にのって甘えたりもする。でも小吉は全然しない。人間の食べ物には見向きもしないしね。野性味が強いんだと思う。でもおしっことウンチは外ではしなくて、必ず家に帰ってする。前に飼っていた猫たちは、外で用を足していたから。こんなにも猫によって性格が違うってことが面白いです」
猫をリアルに描くこと
—デザイナーやアーティストは猫好きが多いと言われますが、仲條さんご自身は猫っぽいと思いますか?
「確かに、デザイナーは内向的だから。そりゃ、あまり拘束されたくないし、会社勤めしても長く続かなくって、結局、個人でやるようになったしね。猫っぽいと言われたら、猫なのかな。犬ではないね(笑)」
—昨年、青山のHBギャラリーで猫をテーマにした個展「CATS」を開催されましたよね。猫を描くのは楽しいですか?
「ギャラリーの人から“今回は猫をテーマにどうですか?”って提案された時は、正直迷ったんです。猫は空想じゃなくて、リアルだから。リアルに描くにはどうしたらいいか。すごく難しいんですよ」
—小吉さんがモチーフになっているわけではなく、空想の猫なのですか?
「そう。空想といっても、リアルでないとダメ。年中一緒にいるから、見ないでも猫を描けるんですけどね。猫を描くときは、顔つきよりも、体のフォルムが重要。体を伸ばした時、毛づくろいしている時、顔を洗っている時。そういう、猫の自然な姿を描くんです」
—猫を描く時、一番難しいところは?
「どうしても、顔が怖くなっちゃうんです。よーくみると、猫って怖い顔をしていません? つり目で、牙があって……。だから怖くなり過ぎないように、でも可愛くしすぎないように。そのバランスかな」
—猫グッズをデザインしたことは?
「実は娘が建築家で、僕がデザインした猫をモチーフにサイドテーブルをつくってもらったことがあるんです。そのテーブルを、伝統工芸とコラボレーションする企画『DENTO-HOUSE』で、漆塗りでつくりました。黒猫みたいにね。値段も高かったんだけど、パリでも展示して、結構オーダーが入って。こういう猫グッズなら、楽しんでもらえるんだなと。意外でしたけど。また猫をモチーフにした作品を思いつけば、つくってみたいですね」
自由であるから魅力的
—仲條さんと小吉さんの関係は?
「いないとダメだね。脱走していなくなっちゃった時も、やっぱり寂しい。小吉は、お客さんがいようがいまいが、作業台の上でゴロンと寝転んじゃうくらい自由です。犬はさ、話せばわかる(笑)。でも猫は理屈が通らないから」
—言葉は理解していると思いますか?
「日本猫は、わかっていると思うんです。でも小吉は、多分洋猫だから通じていないかもね」
—猫のいいところは?
「器量だって言う人もいるけど、飼っちゃうと、もうどんな猫でもかわいいですね」