陶芸家・今井律子さんは、栃木県の益子で、現在3歳になる雌猫・サブジさんと暮らしています。幼い頃から猫や動物に囲まれて暮らしてきたという今井さんは、念願叶ってサブジさんと出会いました。人懐っこいようで、ちょっぴり臆病なサブジさん。それでもおもちゃで遊んだりと、表情豊かな姿をみせてくれました。
“野菜”の名をもつ猫
—サブジさんとはどうやって出会ったのですか?
「ずっと猫が飼いたいと思っていて、2012年5月に栃木の動物愛護センターで譲渡してもらいました。その時2ヶ月くらいだったので、いまちょうど3歳くらいですね。おっとりした女の子です」
—それまで猫を飼ったことは?
「実家に居た時は、猫や犬、鳥がいました。あと実家を出てからは、中学生の時から飼っていた亀のフユタさんと暮らしていたんです。でもずっと猫が飼いたくて、いまの工房兼住居をみつけて、すごく古い建物だったのですが自分たちでリフォームして、ようやく猫を迎え入れる体制ができたんです」
—サブジさんに一目惚れしたのですか?
「いえ、愛護センターでは、何人も譲渡を待っている方がいて、申し込んだ順番に決まっていくんですね。私はキャンセル待ちからの繰り上げだったので、最後でした。そもそも、実家で飼っている動物たちも捨てられていたところを拾ったり、譲り受けたりという形で、縁があって出会ってきました。だから、どの猫にするかなんて、到底選ぶことができないって思っていたんです。で、順番がまわってきて、最後の2匹で、サブちゃんはやんちゃでケージの上まで登っていて、元気がいいなとおもって、彼女に決めました」
—サブジという名前の由来は?
「ブータンの言葉で“野菜”という意味です。一緒に暮らしているパートナーがしばらくベジタリアンだったことと、サブジバザールっていう野菜の市場があって、とても愛されている言葉らしくて。そういう幸せなイメージで名づけました」
—一緒に暮らすようになって、発見はありましたか?
「意外に甘えん坊なんだなって、驚きました。実家で飼っていた猫も気分屋だったので、びっくりしました。人も好きで、ずっと私の跡をついてまわる。お風呂に入っている時も、ドアの外でまっていたり。可愛くてたまらないですね(笑)」
—どんな性格ですか?
「ティッシュとかを掻き出したり、多少いたずらもしますけど、基本は人懐っこいですね。でも実は臆病。外が怖いみたいで、窓を開けていても、パッとでていくことはないです。やんちゃだけど、怖がりなのかな。あと話しかけると、ちゃんと返事をするので、言葉がわかっているというか、コミュニケーションをしている感じがします」
—そういう点では、亀とは違いますよね。
「亀は亀で、見た目が好きなんです。爬虫類とかもなのですが、飼うのは大変じゃないですか。亀は、中学生のときに悩んでいたことがあって、元気がない私を慰めようとして、友人が小さなミドリガメを買ってきてくれたんです。毎日、水をかえたり、冬は冬眠させたりしているうちに、十数年でこんなに大きくなったんです。猫ほどではないですが、話しかけると首を伸ばしてこちらを向いてくれるんですよ」
—サブジさんは言葉をわかっていますか?
「多分、理解しています。遊ぶ? って聞くと、目をラン!とさせるし、カリ(ご飯)のこともわかっていますね」
陶芸の街・益子で暮らすこと
—ちょうど先週まで、益子陶器市(毎年5月と10月頃に開催)に出店されていたんですよね?
「たくさんの人がいらっしゃって、おかげさまでほとんど完売しました。昔は、製陶所や作家がお店に卸せないB品を売っていたのですが、今はいろんな作家が、益子だけでなく愛知や京都からも出店しています。テントごとに個展が開催されているようで、みるだけでも楽しいお祭りです。益子に住むことになったのも、陶器市にきたことがきっかけでした」
—そもそも陶芸家を目指したのは?
「大学で陶芸を専攻していたのですが、作家として食べていけるなんてひとにぎりです。だから普通に就職活動をして、卒業後は都内の印刷会社や雑貨店などで働いていました。でも私には全くむいていないなって思って……。ちょうど、栃木県が運営している陶芸家の養成所の募集をみて、学費が安く、2年間勉強できるということで、仕事を辞めて学校に入ることにしたんです。それから学校を卒業し、陶器市に出店していろいろとご縁がつながり、陶芸家としてやっていくことになりました」
—今井さんの作品は、ユニークな女性やちょっとリアルな動物の顔がついているポットをはじめ、ブローチや絵付けのお皿など、どこか古いヨーロッパの雰囲気がありますよね。作品のインスピレーション源は?
「大学生の時、1年間イギリスに留学していました。そこで陶芸を学んだ際に、目から鱗が落ちるくらい、日本とは異なる技法や道具、デザインを学びました。また、古い宗教画などをみていると、大勢の人物に紛れてちょっと変な顔の人がいたりしませんか? そういう少し変わった部分や、毒っ気のあるモチーフが好きなんです」
—最近の民芸やクラフトブームの影響で、陶器市なども盛り上がっていますが、やはり作家として生き残るのは大変そうですよね。
「確かに、求められるものは結局、実用的なものだったりするので、そうなると似通ったモノばかりになってしまいます。その中で、自分の個性をどう差別化していくか。私は最初、人とかぶらないモノが多く、目にもとまりやすかったのだと思います。でもこれからは器もたくさんつくっていきたいので。本当に厳しい世界です」
モチーフとしての動物の面白さ
—動物が登場する作品が多いですが、猫は作らないのですか?
「猫は身近すぎて、難しいんです。何度もトライしているのですが、納得いくモノがつくれなくって。サブちゃんがかわいすぎて、それ以上の造形をつくれない。動物をモチーフにする時は、かわいいけれどかわいすぎず、リアルな部分との合間を狙っています」
—猫に惹かれる理由は?
「愛嬌のある性格ですかね。フォルムも、曲線が美しい。でも、美しいだけでなく、滑稽なトボけたところもあって、そこがかわいい。その両面があるとろこが、猫の一番の魅力だと思います。意図的じゃない、狙っているわけではない面白い格好をするんです。サブちゃんがいなかったら、全然つまらない日々だと思います」
ーサブジさんと今井さんの関係は?
「いつも一緒にいて距離がないという意味では、家族のようなものです。意思疎通もできるし表情も読み取れる。でも、言葉が話せないから、本当のところは理解できていないかもしれない。そういう点では、家族とは違う、不思議な存在です」