サラリーマンをモチーフにしたイラスト「モテリーマン」をはじめ、雑誌や広告などで活躍するイラストレーターの浦野周平さん。偶然出会った雄猫の宗介さんと雫さんの2匹の猫たちと暮らしています。犬派だったという浦野さんが、気づけば猫に囲まれた生活をすることになった理由とはー?
猫のために家を建てる!?
—宗介さんとの出会いは?
「以前、下北沢に事務所を構えていたのですが、住宅街には野良猫がたくさんいたんですね。ある日、道を横切る親子の猫の群れに出会って。ああ子猫が産まれたんだなって思っていたら、1ヶ月後くらいに、道で1匹の子猫がふらふら〜っと寄ってきたんです。それが宗介でした。ほかの兄弟は健康的に丸々としていたのですが、彼だけがガリガリで。近所で世話をしていたおばさんが、“お兄さん、ちょうどよかったお願いできるかしら?”って半ば押し付けられるように、引き取ることになりました。実は、ちょうどその頃、妻が猫の首輪のブランド『CONOHA』を立ち上げたんですね。日頃から、猫ってカワイイよねって、アピールされていたこともあり、宗介と暮らし始めることになりました」
—保護してからは、すぐ元気になったのですか?
「ガリガリだったので、まず獣医さんに連れていきました。歯が悪かったみたいで、栄養失調だったんです。性格が優しいのか、ご飯の時に自分の分を、他の猫たちに譲っていたのかなと。十分にご飯をあげたら、元気になってきました。宗介も野良猫としては自分は不向きだと思っていたのか、最初から僕達にアピールして、人懐っこかったですね」
—一緒に暮らし始めて変わったことは?
「僕はもともと実家で犬を飼っていたのですが、猫の飼い方は全くわからなかったですね。でも妻は猫派で、しっかり世話していました。そうこうしているうちに、家を探そうとなってペット可物件を探していたのですが、なかなか希望の広さと条件があわなくって。どうしても、普通の物件より高くなってしまうんですよね。月々の支払を考えたら、家を買うほうがいいのでは、と。そこで、家を建てることになり、いまの家に引っ越しました。さらに家を建てるなら結婚しないとって……宗介がきっかけで、人生の転機が訪れました」
—雫さんとの出会いは?
「この家に引っ越してから、妻が妊娠して、そのお腹が大きい時に出会いました。ちょうど夕飯を食べに行こうと近所の食堂へ出かける途中、道路工事をしていたんです。そこにボロボロになった雫がいて。工事のおじさんに聞くと、カラスにいじめられていたらしくて、毛もボサボサで。妻はもうすぐ出産間近だし、って迷ったのですが、ひとまず動物病院に連れて行きました。獣医さんに“助けてくれてありがとうございます”なんて言われて、もう引き取るしかなくって、連れて帰りました。宗介もいるので、最初は僕の仕事部屋で飼い始めて、元気になってきた頃に、一緒に暮らしていいかって、宗介にお伺いをたてました」
—2匹目の猫は、先住猫との相性は大変ですよね。
「そうですね。でも宗介はすぐに受け入れて、ずーっと見守っていてくれました。いまとなれば、人間の子育てに比べれば猫のほうが全然楽だなって思うのですが、当時は常時エプロンをして、授乳やトイレのお世話をしながら仕事をしてって、けっこう大変でしたね」
—宗介さんと雫さんはどんな関係性ですか?
「活発な妹と温和なお兄ちゃん、といった雰囲気ですね。宗介のほうが年上ですが、喧嘩は弱くて、いつも雫がどーんと体当たりして負けています。ご飯の時も、雫が指示をだして、宗介が“そろそろお腹が空いたんですけど”って言いに来る。カリカリをお皿にあげると、宗介は手を付けず、雫が食べるのをじーっとみているだけ。完全に妹に使われていますね(笑)。とはいえ雫は人見知りで、今日もクローゼットから全くでてきません。子どもが産まれると、雫は“構わないでっ”って興味のないフリをしているのですが、宗介は“面倒みなきゃ!”って一緒に横で寝たり、子どもが泣いている“泣いているよー”って教えにきてくれます。子どもたちにとっても、いい遊び相手になっているのだと思います」
アテレコしやすいの猫の習性
—雑誌『FLASH』では、投稿された猫写真にコメントする連載をしていますよね?
「イラストのお仕事かなって思ったら、送られてくる猫写真にコメントするという、なんとも猫マニアックなお仕事でした。コメントだけじゃ申し訳ないと、三毛猫のしっぽをモチーフにしたロゴもつくりましたけど。猫はキャラクター設定がしやすいんですよね。こんなことを考えているのでは、って動きから台詞を導きやすい。それは人間と同じで、だから面白いんです」
—猫のイラストは描きやすいですか?
「猫って構造がわからないじゃないですか。犬は骨格をなぞればシルエットを導きやすいのですが、猫は抱き上げるとぐにょ〜んって伸びてしまう。だから、猫を抱っこしている姿を描いた時は、実際に宗介を抱いて写真を撮ってから描いています。いま猫ブームっていわれていますが、8年も一緒に暮らしているとあまり実感はないですね。宗介と雫、あと友人が飼っている猫くらいしか触れあう機会もないですし」
—近所に野良猫はいますか?
「うちでは“なんかくださいマン”って呼んでいるのですが、向かいの家の屋根にいつもくるキジトラ猫がいます。ずっとフリーランスだと思っていたのですが、最近首輪をしだして。どこかの契約社員になったのかもしれません(笑)」
—最初は犬派だったそうですが、猫と暮らして発見したことは?
「いまでも、犬も大好きですよ。そもそも、猫は犬に比べて、冷たい生き物だと思っていたんですね。でも出かければ寂しがるし、帰ってくると大喜びでスリスリしてくる。犬と同じくらい、感情表現が豊か。犬が猫がっていうよりも、生き物と暮らすことの喜びのほうが大きいですね」
—では、もしかするともう1匹増えることも?
「いまはふたりの子どもが小さいので、難しいかもしれません。だから、裏路地を通る時などは、猫センサーをボッキリ折っています(笑)。見つけちゃったら、やっぱり通り過ぎることはできないので。とはえ、もう1匹くらいはいけるかも、なんて思っちゃいますね」