漫画『大東京トイボックス』や『スティーブズ』などを手がける漫画ユニット・うめの小沢高広さんと妹尾朝子さんは、2匹の猫たちと暮らしています。人懐っこい白猫のはるさんと、大人しい黒猫のしじみさん。10年以上一緒に生きてきたからこそ実感する、猫たちと暮らす中でみつけたノウハウや楽しさについて伺いました。
探しあてた白猫と、偶然出会った黒猫
—2匹の猫たちとの出会いは?
妹尾朝子(以下、妹尾)「はるは2004年6月に、里親募集のサイトでみつけました。それより前に、私達のペンネームの由来である“うめ”という白猫を飼っていたのですが、交通事故で亡くなってしまって。猫がいない生活に耐えられず、里親募集サイトで白猫を探していたんです。でも、いいなと思う白猫がいても、場所が神戸だったり、東京から遠くて。なるべく近くで、生後3ヶ月くらいで絞ってじっくり探しました。はるは、赤ちゃんの頃は茶色い部分がもっと薄くて、白猫っぽかったんですよ」
—その後、黒猫のしじみさんがやってきたと?
小沢高広(以下、小沢)「1年くらい経った頃、近所で呑んだ帰りに中華料理屋さんの店先に“ネズミがいる! ”と思ってのぞいたら、子猫だったんです。携帯よりも小さくて、産まれたてのような感じでした。しばらく様子を伺ったんですが、周りに母猫も兄弟もいなくて1匹だけで。しょうがないなと思って、自宅に連れて帰り、翌日、動物病院に連れていきました。獣医さんにこの猫どうしますか? と聞かれて、じゃあウチで飼います、と成り行きで飼うことになったんです」
—しじみさんは偶然出会ったと。いきなり子猫がやってきて、はるさんは大丈夫でしたか?
妹尾「最初は驚いたようで、般若みたいな顔をしてシャーシャー怒っていましたが、1週間くらい経ったら慣れましたね。しじみが寄っていっても平気になり、舐めてあげたり。“もう、しょうがないなあ”って感じで受け入れてくれたみたいです」
—それぞれの性格は?
妹尾「はるは人懐っこくて、誰がきても撫でて欲しくてニャーニャーと近づいていきます。保護された時から、人間にお世話されていたので、きっと怖がらないのだと思います」
小沢「しじみは、野良というか、産まれがワイルドなので(笑)、警戒心が強い。慣れるとベッタリして、何されても怒らないんですけどね」
妹尾「2匹とも少なくともうちの子どもたちが触わるぶんには全く怒らないので、ベタベタさせているのですが、そうそうこんなに触らせてくれる猫はいないよって話しています」
猫はしつけられない生き物
—2匹で遊ぶことは?
小沢「しじみは遊んで欲しいみたいなんですが、はるのほうは、足腰が弱いので、あまり登ったり駆け回ったりしないんです。この家を建てる時、キャットタワーがあればいいと、階段の前に作ったのです。なのに誰も見向きしないんですよ(笑)。だから今は飾り棚になっています。でも、トイレの猫穴は活用していますね。トイレは3箇所に置いているのですが、粗相をしてしまうことが多くて。ラグとソファーは何度もトライしたのですが、毎回やられてしまうので諦めました。あとは建築士さんと話して、爪が引っかからない壁紙を選んだところ、これは効果があったみたいで、壁では爪とぎをしなくなりました」
—確かに、猫は悪気があるというよりも、そこでするのが気持ちいいからしまうわけで……しょうがないですよね。
小沢「昔、取材で動物園の飼育員さんたちにお話を伺ったことがあるのですが、彼らはプライベートでもたくさんの動物を飼っているんですね。それで、猫の粗相について相談したら、“猫のしつけは絶対に無理ですね”と言われました。動物を扱うプロである飼育員さんが無理と言うなら、僕らには全然無理なことなんだなと(笑)。だからもう、猫をしつけるのではなく、人間側で対処することにしたんです」
—二人のお子さんたちとの関係は?
小沢「子どもが産まれていちばん驚いたことは、猫ってこんなデカかったのかと。人間の赤ちゃんは猫に比べるとすごく小さいんですよね」
妹尾「最初はニオイをクンクン嗅いでいたのですが、しじみはすぐに一緒に寝るようになって。はるはしじみの時と同じように、“またなんか拾ってきたの!? ”という感じでしたが、1週間もしたらみんな揃ってベビーベッドで寝ていました」
—何年も一緒にいると兄弟みたいな感じでしょうか?
妹尾「はるが1番上のお姉ちゃんで、長女が2番目、次女が末っ子でしたね。しじみは兄弟ではなく、ペットの猫って感じ。でも長女が6歳になった頃から、段々はるが甘えるようになって、やっとペット感が出てきました」
小沢「それまでは、はるは子どもたちと対等というか、むしろ長女のことを下にみていたのに、ある時から逆転したんです。猫と子どもの関係性で、いちばんビックリしたことですね」
猫と暮らすノウハウをマンガに!?
—先程、ペンネームの由来になったという、うめさんのお話がでましたが、どんな猫だったのですか?
妹尾「うめは、道端で声をかけられたんです(笑)。スーパーの帰り道、きれいな白猫がいるなとみていたら近づいてきて、頭撫でたら、そのまま家についてきたんですね。1歳くらいだったと思います。」
小沢「玄関までついてきて帰らないし、どうしようかと思ったら家に入ってきて。なし崩し的に同棲が始まった感じですね(笑)」
妹尾「いま思うと迷い猫だったのかもしれないのですが、首輪も去勢もしていなくて。元々野良猫だったので、家と外を自由に出入りできるようにしていたら、交通事故にあってしまったんです」
小沢「実は『東京トイボックス SP』で、居なくなった猫を探す10Pの読み切り漫画を描いたんです。猫は同心円状に行動範囲を広げていくので、まずは近場から探す。そして、ポスターに猫の写真と特徴、連絡先を描いて電柱に貼る。また家の周りの道路が、どこが管理しているかを調べます。国なのか地方自治体なのか、それによって事故にあった場合の問い合わせる先が違うんですね。保健所はもちろんですが、警察や清掃局への確認も大事です。そういったノウハウを10Pにまとめました」
妹尾「たぶんペット探偵ってこういうことやってるんじゃないかなと思いました。猫の場合、亡くなっていたなら、まず遺体がでてくる。そうでなければ、きっとどこかに隠れている」
小沢「うめが居なくなった時、1週間くらい探し続けていたのですが、結局事故にあって、区の土木課で冷凍保存されていたんです」
妹尾「結局、実家の庭に埋めました。もし帰ってこないままだったら、まだどこかで踏ん切りがつかなかったと思います……。もちろんとても辛いんですけど、戻ってきたこと自体に、あのときは喜びすら感じました」
小沢「うめの時はノウハウが確立していなかったのですが、はるが脱走した時はこの方法で4~5日後にみつけました。徹底的に関係部署に連絡して、どこにも遺体が届いてないということは生きてる、という確信を持てたのが大きかったですね。それがなかったら、朝に晩にと、何時間も捜索なんてできずに、あきらめてたかもしれない。だからこそ、このノウハウは、漫画にして多くの人に伝えなきゃって思ったんですよね。猫は朝の涼しい時間帯にでてくると聞いて、1日ごとに捜索範囲を広げていき、線路沿いの側溝に隠れているところを発見できました」
妹尾「さぞかしやつれてしまったかと思ったのですが、はるは全然変わっていなくて笑いました。どこかでご飯をもらっていたのかもしれません(笑)」
—漫画の中に猫を登場させる時に意識していることは?
妹尾「猫漫画のお仕事がきたらいいな、と思って積極的に描いているんですが、一度も来たことありません(笑)。いつも、ここに猫を描きたしたらどうなるかな? って考えていますね。私は異なる種類の生き物が戯れている絵が好きなんですね。例えば、子どもと大型犬と猫が戯れていると、心がウワーッともっていかれます」
—猫は漫画として描きやすいですか?
妹尾「デフォルメした猫はあまり好きではなくて。実写っぽいシルエットや描き方の猫が好きです。ウチの猫たちは黒と白に塗ってしまえばいいので楽なんですよ。たまにアシスタントさんに、これはどっちを黒く塗ればいいのですか? と聞かれることもありますが(笑)」
—電子絵本『ねこにこねこ』では2匹とも登場しますよね。
小沢「AmazonのKindleで新しく絵本を作るサービスがスタートして、試してみたいと思ったんです。まだ目がよく見えない乳児は白黒のコントラストが強いほうが見分けがつくときいたことがあってたので、いつか白黒だけの絵柄で絵本を描いてみたかったんですよ。ちょうどうちの猫たちが白黒なので、ぴったりのネタでした」
妹尾「この絵本は、第二弾も作りたいと思っています。なかなか漫画とは違って難しいんですけど。もちろん猫漫画もぜひ描きたいですね。オファーを待っています(笑)」