フリーアナウンサーとしてラジオ番組TOKYO FM「Blue Ocean」やテレビ、「サンデー毎日」の対談連載などで活躍している住吉美紀さん。ターキッシュアンゴラの“さときち”ことさとみさんと、ラパーマのくろすけさんの2匹の猫と暮らしています。言葉の通じない猫とのコミュニケーションはどのように培われていくのか。元気いっぱいの猫たちから学んだことついて伺いました。
たくさんの猫たちと暮らしてきた
—幼い頃から猫を飼っていたのですか?
「小学生の頃、父の仕事でアメリカのシアトルに住んでいたのですが、近所の方から子猫が産まれたというので譲り受け、はじめて猫を飼うことになりました。雑種で、クマみたいな黒猫でした。日本に帰ってきてからもやっぱり猫を飼いたいと思っていたら、父が私の誕生日にシャムっぽいダークポイントの雑種の子猫をプレゼントしてくれたんです。2匹目として、チンチラのような長毛種の猫も飼っていました。だから、ずっと猫が側にいたんです。実家を出てからは、NHKの新人時代、ペットブームの背景をレポートするために取材したペット屋さんで、アメリカンショートヘアに一目惚れして飼うことになりました。大晦日にうちにやってきたので、“みそ”という名前だったのですが、たった2歳で亡くなってしまって……。とても辛くて、また飼うにしても覚悟と責任が必要だと思い、しばらくは飼うことができなかったんです」
—では、さとみさんを飼うきっかけは?
「実家の猫も亡くなり、身近に猫がいない時期が続いていました。そんな時、猫カフェの存在を知ったんです。そこで西小山にある猫カフェ『カールアップカフェ』に行ってみたら、ブリーダーさんが社会に慣れさせるためにカフェに預けていたさとみちゃんがいて。出会うなり、私の膝で丸くなって寝始めて……もう選ばれてしまったとしか言いようがないんですが(笑)。家に帰ってからもさとみちゃんのことが頭から離れなくなり、結局、飼うことに決めました」
—さとみさんは、猫を求めていた住吉さんの気持ちにスルリと入り込んだと。くろすけさんとの出会いは?
「さとみちゃんを飼ってから、猫カフェ周りの方々とつながりがどんどん広がって。“猫親戚”って呼んでいるんですけど(笑)。猫を通したコミュニティですね。長期で不在にする際に預かってもらったり、シャンプーをしてもらったり、猫に関する情報交換をしたりするようになりました。実は黒猫を飼いたいという気持ちはずっとあったんですが、2匹も飼うのは無理だろうと思っていたのです。でも、ある日カールアップカフェでくろすけと出会ってしまって。猫親戚にも2匹飼いの良さを薦められ(笑)。さとみちゃんと性格が合わなかったら難しいかなと思ったのですが、お試しで2週間くらいうちに来てもらったら、もう手放せなくなったという」
—住吉さんのブログにも2匹の奮闘ぶりが掲載されていましたよね。
「生き物同士の出会いのやりとりを観察したのは初めてだったので、面白かったです。はじめて2匹が対面した時、ガーッと取っ組み合いみたいになってしまって。さとみちゃんがくろすけを怪我させてしまわないか心配だったのですが、その辺の加減はさすが動物同士、わかっているんですね。人間でよく男同士が喧嘩で殴り合った後により友情が深まる、みたいなことがありますけど、そんな感じで、一度喧嘩をしたらもう打ち解けていました」
男の子は単純な性格!?
—2匹目を飼う時は、性別も気になりましたか?
「いままで飼ってきたのはすべて雌猫だったので、雄猫を飼うのはくろすけが初めてです。猫カフェの知り合いからは、雌猫と一緒に飼うなら雄猫のほうが性格を補完しあうので飼いやすいよとか、雄猫のほうが甘えて可愛いという話を聞きました。雌同士だとぶつかって無視し合ってしまうとか。実際に飼ってみてわかったのは、人間も猫も、男の子のほうが単純だなと(笑)」
—どういう場面で違いを感じますか?
「さとみちゃんのほうが神経質。2匹とも人懐っこいので、見知らぬ人が家に来ても寄ってくるのですが、何かがあった時にはさとみちゃんはサッと隠れてしまう。なのに、くろすけは“何だろう〜”ってひょこひょこ近づいていくんですよね。あとは“ご飯! 遊ぶ! 寝る! ご飯! 遊ぶ!寝る!”みたいな単純なサイクル(笑)。さとみちゃんは“いまは食べる気分じゃないの〜”といって、機嫌の波があったり、こだわりが強いですね」
—ターキッシュアンゴラやラパーマは比較的、珍しい猫種ですよね。
「初めて飼った黒猫は雑種でしたが、アメショーや長毛種など、さまざまな猫に接してきました。猫カフェで初めて見たターキッシュアンゴラは、いままでの猫たちとは違う気品と美しさで、感動したんです。手足が長く、耳も大きい。カッコよくてキレイで、こんな猫もいるのだなと。そこで初めて、ターキッシュアンゴラという猫種を知りました。ターキッシュアンゴラは、人間が交配で生み出したのではなく自然発生種といわれていて、トルコでは国猫なので動物園にもいるそうです。またペルシャなどのダブルコートとは異なり、ターキッシュアンゴラの毛はシングルコートなので、毛は長めだけれどスリムで毛の量が少なめ。性格も活動的で高い所に登るのも得意です。ラパーマは巻き毛が特徴で、さとみちゃんよりはおっとりしてますが、でも元気いっぱいですね」
—くろすけさんは、キャットショーにも出演したことがあるとか。
「経験として出てみたら、リボンをいただきました。またその結果、海外のラパーマのナショナルブリードカウンシルの賞もいただきまして。全く知らない世界だったので、猫にもこんな世界があるのだなと。いろんな猫が集まり自分の登場を待機していて、不思議な経験でしたね。猫カフェもそうですが、猫がきっかけで人生が大きく変わったり、新しいコミュニティができる場合もあるのだと実感しています」
言葉を使わないネコミュニケーション
—お気に入りの猫グッズは?
「猫グッズはなるべく買わないようにしているのですが、ついつい手に取ってしまうんですよね。陶芸体験をした時に作ったお香立てや、ずっと使っている猫のマグカップとか。知り合いにいただいたりすることも多いかな。小学生の頃から読んでいたガーフィールドの猫漫画や町田康さん、小手毬るいさんの本も好きです。あと私の書いた本『自分へのごほうび』(幻冬舎文庫)でも、表紙に2匹が登場しています」
—アナウンサーは言葉を操るお仕事ですが、猫には言葉が通じませんよね。
「家にいる時はシーンとしているのが好きなんです。シーンとした中でただ一緒にいる。その心地よさがあります。喋らなくても、目でもコミュニケーションできますしね。猫たちが口を開けて、声のないニャーをするときがあって。そんなときは、私もパクパク声を出さずに口を開ける、うちならではのコミュニケーションがあります(笑)。そのやりとりをするだけで十分理解していると思います」
—猫たちと住吉さんの関係は?
「ベッタリですね。帰ってくるなり玄関にニャーって寄ってきます。洗面所やキッチンなど私がどこへ行くにも、民族大移動みたいについてくる。ヨガをしていても代わる代わるちょっかいを出したり、寝る時も必ずベッドに来ます。1匹だけだった時は、わりと対等な関係だったのですが、2匹になってからは子どもたちを面倒みている気分。どちらかが喧嘩を仕掛けていたら、やめなさいと叱ったり。食べ物の好みや遊び方など、2匹とも性格が全く違って、猫によってこんなに個性が違うのかと驚きます」
—猫を飼うことで、住吉さん自身に何か変化はありましたか?
「一番変わったことは、命を預かっているという責任感でしょうか。生き物だからこちらの思った通りは行かない。それを含めて自分のほうがゆずらないといけない部分もある。可愛いなと思う気持ちだけではないんですよね。また何かがあったときに相談でき、助けあえる人がいると心強い。誰でもいいわけではなく、猫に関しての理解者です。生き物って飼っている人同士しかわからない悩みや、独特の責任感がありますよね。ペットを飼ったことがない人は“しょせん動物でしょ”って思うかもしれないけれど、一緒に暮らし始めたら家族になる。ちょっとしたことでも、気を使わずに話ができる人がいると安心できます。ご飯を食べないんだけどどうしたらいいとか、こんなオモチャがあるとか。経験者の話は雑誌や本で得る情報よりも、何倍も役に立ちます」
—動物と暮らすことの喜びや責任について、どのように伝えていきたいと考えているのでしょうか。
「ラジオ番組『Blue Ocean』(TOKYO FM)ではペットのコーナーがありますし、機会があればどんどん伝えたい。メディアで話したり、質問をしたりする中で、生き物に対する責任感を持つことは声高に言わずとも、発言の其処彼処からにじみ出てくるのではないかなと。またそういう話は正座して聞くよりも、ラジオなどでなんとなく聞いていて自然と伝わるのがいい。フリーになって、自分が個人として大事にしている価値観を出せる場が増えてきましたが、自分の言葉には責任が伴うことを実感しています。あえて言わないという選択肢もあると思うんです」
—言葉がある利点もあれば、言葉がないからできるコミュニケーションもあると。
「動物と暮らしていると、言うことを聞いてくれない場面に直面しますよね。コップを落として割ってしまっても、何で割ったのっていっても理由がない。こんなに高かったのに! と怒っても猫たちには伝わらない。相手をコントロールしようとしてもできなくて、自分が待つか、変わるか、まぁいいかと思うしかない。それは動物相手だけでなく人間でも一緒。人や事象について、自分が描いたパーフェクトな計画通りにはいかない、それを受け入れることで、流れに身を任せる巾が自分にでき、寛容になりました。あと、猫はリラックス上手。一緒にいることでつられて、気が付くと自分もリラックスしている。こういう時間も必要だなと、猫は理屈ではなく自然と教えてくれるんです」