「少年性」をキーワードに、東京コレクションなどでも注目されているメンズファッションブランド『Sise』のデザイナー・松井怔心さん。7歳になる雄猫・SOU(ソウ)と暮らしています。猫モチーフのファッションアイテムがブームになる昨今。ファッション・デザイナーが魅了される美しい猫との暮らしについて伺いました。
産まれた時から猫と暮らしていた
—猫と暮らすきっかけは?
「産まれた時から、すでに猫がいたんです。実家ではアメリカン・ショートヘアとラグドール、ヒマラヤン、ミックスなど5匹の猫を飼っていました。上京してからもやっぱり猫を飼いたいなと思っていたのですが、一人暮らしのワンルームでは狭いので、猫を飼うために妹と一緒に広い部屋を借りました。猫のためと思って借りた家が思いのほか広く、アトリエとしても使える部屋があったので、自分のブランドを立ち上げることになったんです。洋服を作るにはある程度のスペースがないとできないので、あの広さがなかったら自分で始めたいとは考えなかったかもしれません。猫がきっかけで、すべてがスタートしました」
ーSOUさんとの出会いは?
「ベンガルを飼いたいなと思って調べているうちに、ブリーダーさんをみつけて妹と会いにいったんです。普通のアメリカン・ショートヘアしかいなかったのですが、レッドタビーやブラウンタビーを探しているといったら、バックルームから抱っこされてSOUがでてきたんです。その姿があまりにも間抜けで(笑)、すぐに決めました。アメショーにしては変わった柄で、雄で去勢しているのに7歳になった今も太らず、ずっと子猫みたいな体型です」
ー一緒に暮らし始めて、ご自身に変化はありましたか?
「実家で猫を飼っていたとはいえ、ご飯やトイレなど母が面倒を見ていたわけですよね。病気になっても、病院へ連れて行くのは母がやっていた。でもSOUは、日々のご飯はもちろんワクチンや去勢など、全てを自分で世話してきました。手塩にかけるというか、たっぷりと愛情を注いでいます。だから、SOUが亡くなったら1年間は何もできないと思う。それくらい、居なくなってしまうことを考えると怖いですね。妹とはすでに別居しているのですが、彼女は黒猫を飼っています。産まれた時から猫と暮らしていると、猫がいない生活は考えられないですね」
ーSOUさんはどんな性格ですか?
「ものすごく甘えん坊です。もっと猫らしく、自由で気ままでいて欲しいいんだけど。朝はご飯で起こされて、帰ってきたらすぐ抱っこをせがむ。洗面台に行くと出掛けるとわかるのか、ニャーニャー鳴きます。遊ぶのも大好きで、猫じゃらしで跳んだり、走り回ったり。ご飯はサイエンスダイエットのカリカリ。コンビニで売っている安い缶詰が好きなんだけど、なるべくカリカリだけであとは鰹節を朝と夜の2回あげています。おやつもたまにあげますけど、基本的には食にあまり執着がないみたいですね。トイレはニャンとも清潔トイレ。爪研ぎは段ボールだとゴミが出るので、麻のタイプを使っています。高さが必要だなと思い7歳の誕生日プレゼントにキャットタワーをプレゼンしたんですけど……これは全く遊んでくれないですね」
イット・ガールならぬイット・キャット!
ーファッション・デザイナーと猫といえば、最近ではカール・ラガーフェルドが愛猫・シュペットに夢中で、キャラクター化するなど、まるでミューズ扱いされていますよね。松井さんとSOUさんは、どういう関係なのでしょうか?
「SOUは、ブランドを始めたきっかけになった猫。品番にも『SOU-0011』と名前が入っています。ものを作る上で、重要なキーになっている。イット・ガールならぬ、イット・キャットですね。SOUの由来は、僕の名前が“セイシン”なのとブランド名も“Sise(シセ)”でサ行の名前にしたく、また創造の“創”という意味も含めで名付けました。華奢で美しい姿は、ブランドイメージも体現していると思います」
ー最近はステラ・マッカートニーやミュウミュウなど、猫モチーフのファッションが数多く登場し、一過性のトレンドから定番になりつつありますよね。
「ロンドンのショーン・サムソンというブランドのキャットプリントTシャツは、かっこいいと思いました。メンズだと甘くなってしまうので、なかなか難しいですよね。猫は好きだけど、猫グッズには全く興味がなくって……。でも、いずれはSOUの柄をプリントにしてみたいと考えています」
ーSOUさんがいることで、お仕事にも影響を与えていますか?
「以前は自宅とオフィスが一緒だったので、モデルがフィッティングに来たり、打ち合せでたくさん人が出入りしていました。演出家チームやフィッティングチームなど、コレクション前は夜中まで作業しているので、SOUが癒しだったんですよね。平気で資料の上で寝ていたり、現場のピリピリした空気を和ませてくれた。だから、ブランドの運営がMARK-STYLERになってからは会社での打ち合わせが当然の事になるのですが、最初はSOUがいないことに違和感があって。逆にSOUも寂しいかもしれませんが。猫の自由で気ままなところは、仕事の場でも潤滑油になっていた気がします」
ー猫の一番の魅力は?
「造形的に美しく、フォルムの完成度が高いところ。また、普段は全くこないのに、ちょっと辛いことがあると近くによってくる。その付かず離れずな距離感は、人間関係に置き換えると勉強になります。近すぎると甘えてしまうし、遠くなると疎遠になってしまう。猫は、その距離感のとり方が上手いなと。どうすれば人に愛されるかを知っている。こちらが構いたくなるような、小悪魔的な駆け引きが自然にできるんですよね。人間にしたらすごく仕事ができると思います。見た目も美しく、みんなの空気を読んで、いるべき場所にいる。たまにフラりと居なくなったりしながらも、カリスマ性があって人を惹き付ける。わがままデザイナーみたいですが(笑)。とにかく猫は不思議な生き物だと思います」