Eテレ番組『2355』『0655』の楽曲提供や、ギターやウクレレを用いた音楽を発表しているミュージシャンの近藤研二さんは、1歳になったばかりの愛猫・モイさんに夢中です。取材中も元気に走り回るモイさんと出会ったきっかけや、猫とミュージシャンの相性のよさについて訊きました。
オーロラがみせてくれた奇跡
—モイさんとの出会いは?
「一昨年の夏に、先代の猫・マルオが亡くなったんです。15歳でした。しばらくペットロスになってしまって、半年ほど経っていくつか譲渡会に顔を出してみたものの、なかなか一緒に暮らそうって気にはなれなくて。春になりツアー先の大阪でライブをしている時、妻から里親募集サイトで可愛い猫をみつけたよと、連絡がきたんです。早速サイトを見てみたら、生後10日でまだ目も開いていないような可愛い子猫がいて、すぐに大阪からメールフォームで里親申請しました。数時間したら返事がきて、翌日、山梨まで会いにいきました。子猫は3匹いたのですが、僕が行った時にはすでに2匹はもらわれていて、でも一番気になっていた子が残っていて、それがモイでした」
—その3匹の猫は捨て猫だったのですか?
「山梨の中学生が、公園でダンボールに入った子猫をみつけたらしいです。担任の先生が、里親募集をかけてくれる人のところに持ち込み、翌日には募集サイトに掲載されたようです。すぐにたくさんの応募があったようで、条件は厳しかったのですが、僕は早かったのと、ありったけの猫への思いを綴ったので選んでいただけたみたいです」
—譲渡会や里親募集サイトで、どんな猫を探していたのですか?
「特にこだわりはなかったんですが、鼻と肉球ががピンクの子がいいなと(笑)。子猫の時、モイはこんな長毛種だとは、わからなかったですからね。カラダも大きいし、ノルウェージャン・フォレスト・キャットの血が混ざっているのかもしれません」
—以前、一緒に暮らしていたというマルオさんは?
「マルオはアメリカンショートヘアでした。11歳の頃から腎臓が悪く治療をしていました。晩年は不整脈もあり、ある定期検診の日に心臓の検査をしてもらっている最中に病院で急変してしまって。突然のことだったので、悔やみきれないというか……。それからは、猫と暮らしたいけれど、しばらくは夫婦ふたりかなと思っていました。僕はミュージシャンなのでライブでいろんな地方に行くこともあるのですが、マルオと暮らした15年間、ふたりで長期の旅行をしたことがなかったんです。それで去年の2月、初めて妻とふたりでフィンランドへ旅行しました。運良くオーロラもみることが出来たんですが、きっと天国のマルオがみせてくれたのかなって。帰国してから、譲渡会に行ったりしているうちに、モイと出会えたわけですが、モイの生まれたと思われる日が4/8で、なんとマルオと同じ誕生日なんです。さらに、猫の妊娠期間は2ヶ月と言われていて、ちょうど2ヶ月前、僕がオーロラを見ていた時にモイは生命を宿したことになる。偶然にしては出来過ぎているんですけどね(笑)、奇跡のような巡りあわせです。モイは来るべくして、僕たちのもとに来てくれたのだと思っています」
—モイという名前の由来は?
「フィンランド語で“こんにちは”とか“やあ”という気軽な挨拶の意味です。2回“モイモイ”と言うと、“さよなら”の意味になって、響きもあわせて面白い言葉だなと思って名づけました。マルオとモイで頭文字がMという共通点もあって、自分のレーベルの名前もm+m recordsにしたんです」
一瞬しか味わえない子猫の魅力
—子猫時代はどんな様子でしたか?
「子猫は、最初の1年で劇的に変化します。最初の3ヶ月くらいは、朝と夜で大きさが違うくらい。モイを膝に乗せて本を読んでいて、しばらくしてみたら、大きくなっている。半ば冗談ですが(笑)、でもそれくらい日々成長するんです。寝ている時にビクビクって痙攣するのも、成長している証。この体験をすると、子猫ってたまらないなって思います。離乳前で、乳飲み子だったのでミルクをつくらないといけないし、オシッコもでないからトントン叩いてあげたり、最初は大変でしたが。最初の1ヶ月で、iPhoneのカメラの容量がいっぱいになるくらい、毎日見逃せなくって撮っていましたね(笑)」
—モイさんはどんな性格ですか?
「警戒心が全くないです。マルオはお客さんきたら、2階に逃げてからしばらくしてようやくでてきたのですが、モイは最初からグイグイいきますね。遊ぶのも大好きだし、まだ1歳なので元気に走り回っています」
—人見知りも、全然しないんですね。
「そうですね。最初の1〜2ヶ月が社会化期といって、社会の情報をインプットする時期らしいのですが、その時期に家にいろんな人が遊びに来てくれたおかげで、人嫌いにならず友好的になってくれてよかったです。近所に、シンガー・ソングライターの山田稔明さんが住んでいるのですが、彼も猫を飼っていて猫好きで、モイによく会いに来てくれます。ちょうど彼がアルバムの録音をしているタイミングで、プライベート猫カフェ的な感じでいつも仲間を連れてきてくれました」
—それだけたくさんの人間に会っていたら、もしかすると、自分は猫だって認識していないかもしれませんね(笑)。
「確かに、モイは子猫の時に兄弟と離れてから、ほかの猫には接したことがないんです。だから、もしかすると人間だって思っているかも(笑)。山田くんちのポチ実ちゃんにも合わせてみたいんですけど、彼女は怖がりみたいなので、難しいかもしれませんね。モイは、動物病院でハスキー犬と一緒になったことがあるのですが、その犬がモイの顔の目の前にきても、“なに?”みたいな感じで、動じることなくのほほんとしていました。警戒心がなさすぎてちょっと心配するくらいです」
温泉のような猫の効能
—ご自宅のスタジオにも出入りするんですか?
「たまに一緒にピアノを弾いてくれて、それがインスピレーションになることもあります。このボードは吉祥寺で開催されている猫祭りに参加した時のもの。実はEテレ『0655』の『ねこのうた』コーナーがスタートする時、マルオの写真も紹介してもらいました。その写真もあります。CDジャケットの帯や本には、どんこさんも載っていますよね」
—Eテレの『2355』『0655』では猫にまつわる歌もたくさんつくられていますよね?
「今年発売されたベスト盤に収録されている『猫のふみふみ』という曲を作曲しました。モイがきてからできた歌です。モイがふみふみする姿をみながらつくったので、優しく素朴な曲になったと思います。以前にも『眠れ ねこ ねこ』という曲をつくって、これは僕が歌っています。猫の寝顔を見ながら歌う子守唄のような曲をと依頼があってつくり、ささやくように歌っています」
—曲を先につくることもありますか?
「『2355』は就寝前にみんながうっとりするような曲を、という依頼があってつくったものが多いのですが、意外な歌詞がついたりすることもあります。小泉今日子さんが歌っている『三日月ストレッチ』は、ストレッチをする歌詞がついています。でも、つくった時はラブソングをイメージしていたので、思いもよらない仕上がりになって面白かったです」
—ご自身のアルバム『子猫のロンド』にも猫にまつわる曲が?
「モイがきてから、去年初めてつくったソロアルバムです。子猫が遊ぶ様をみていると、同じことを何度も反復するんですね。それがロンドの曲想に似ているなって思って作曲しました。モイが遊んでいる姿を見ながら。子猫時代の動画を自分で編集してミュージックビデオもつくりました。本当は曲のプロモーションビデオなのですが、ただの猫ムービーになってしまいましたが(笑)」
—ライブでのお客さんの反応はいかがですか?
「自分ではずっと前から猫の曲はつくっていたし、演奏もしていたのですが、やはり最近の猫ブームで、モイがきっかけで知ってくれる人もいるみたいです。インスタグラムも、ほぼモイの写真ですからね(笑)」
—ミュージシャンは猫好きが多いといわれますが、やはり親和性があると思いますか?
「マイペースだからでしょうね。ミュージシャンは独自にやっている人が多いので、その波長が、犬よりも猫のほうが合うんだと思います。僕は小さい頃に犬も飼っていたのですが、でもやっぱりどちらかというと猫が好きかなあ。煮詰まった時にモイがいると本当に癒やされます。まるで温泉みたいですよ。ふっと疲れた時にモイを愛でると、温泉の効能と同じで、あ〜疲れがとれた〜って思います」